【驚愕コラム】田中泰延のエンタメ分党 ことばに近づくためのブックガイド

【驚愕コラム】田中泰延のエンタメ分党

ことばに近づくためのブックガイド

みなさんこんにちは。田中泰延といいます。ひろのぶと読んでください。47歳です。田中泰延のエンタメ新党という映画のコラムを書いたりしています。

最近は会社を辞めたはずみで糸井重里さんと対談したりもしています。

さて、大学を目指す皆さん、そして大学生の皆さん、この糸井さんとの対談を読んでいただいてもわかると思うのですが、僕は言葉を使って考え、話し、さらには書くことを仕事にして生活しているわけですが、その言葉を使ったり、理解したりすることが急にできなくなったらどうでしょうか。

困りますよね。僕なんか会社を辞めてすでに生活に困っているのに、唯一の商売道具である言葉が使えなくなったらもっと困ります。

京都学園大学で先生方のインタビュー記事シリーズを書いているさえりさんも、きっとライターとして困ると思うんです。さえりさん、どうですか。

さえりさん。

なぜこっちを向いてくれないんでしょうかさえりさん。


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それはですね。田中さんが10メートルぐらい離れて望遠レンズで私をこっそり撮影しているから声が聞こえないんですね。

えっ。

相変わらず肩こりですねさえりさん。

食べる時も肩こりですかさえりさん。

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写真載せたいだけやろ。

なぜわかる。では、すこし意味のある写真を載せましょう。この壁にあるタペストリーを指差してみましょうか。

itmt_yoshi_talk_saeri

意味ないですよね。

うん。

…こんなふうに特に意味のない「ことば」によるコミュニケーションも、時には人間関係を円滑にしますよね。

しかし、「ことば」によるコミュニケーションが、さまざまな障害により、本当にうまくいかなくなったら?そんな研究に取り組まれているのが京都学園大学の吉村貴子先生。吉村先生は、いろんな障害の方を対象として、「ことば」を取り戻すための訓練をする「言語聴覚士」なんです。

さえりさんはそんな吉村先生にお話を…

やっぱりデートかよ?!
相手の性別関係ないわ!!仲良くすんなよ!!

敷地内に山も川も畑も牧場もある京都学園大学・京都亀岡キャンパスはもはやハイキングコースといっても過言ではありませんでしたが、本日伺ったこちら、街中にある京都太秦キャンパスも、遊歩道あり、テラスありの、あなどれないデートスポットです。

そんな吉村先生とさえりさんのお話は、ぜひ記事を読んでいただきたいと思います。

人間はことばをどう話しているか?「言語聴覚士」という仕事を吉村先生に聞いてみた

ところで、このさえりさんの写真は目線がカメラに来てるでしょう?これはね、目線がきてるのは桂さんというプロのカメラマンのほうを向いてるんですよ。目線がきてないのは僕が撮った写真なんですよ。わかりやすいですね。

今回のコラムがなぜ【驚愕コラム】かというと、写真をあらためて並べてみると、あまりのこっち見てない率に驚いたからです。

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わたしが知らないうちに撮ってるんだから当然ですよね。

当然ですよね。

僕には例によって原先生から課題図書を読むミッションが課せられました。

では、最初の本。

ヒトはなぜことばを使えるか -脳と心のふしぎ-
山鳥重 講談社 出典:Amazon

まず、「ことば」とはなんでしょう?という話から教えてくれる本です。

言語学的な解き明かしと定義から始まる第一章。すごくだいじなことなんですが、ことばは、ココロのなかのモヤモヤしたことに範囲を区切って、名前をつけて、分類して整理して記号にするんですね。で、「できあがった記号が今度は心そのものをその記号に従わせる」「ことばは心を組織する」と。そうなんでよすね。

僕も、友人から相談を受けることがあります。怒っているとか、悩んでいるとか。そんなときは、相手のモヤモヤをことばに変換して
「ああ、なるほど、私のモヤモヤはそう言いあらわせるのだ。気が楽になった」と思ってもらえたら、相談完了なんです。
第二章では、そんなことばがうまく使えなくなるさまざまな失語症の例を挙げ、終章に向けて、神経心理学の見地から脳の働き、言葉の作用を総合的に説明しています。

ひろのぶさん

先生、先生、吉村先生。
なるほど、ことばというのは人を人らしくしている、大切なものなんですね。

言語聴覚士になる勉強は、ことばの仕組みを学ぶことで、どういう仕組みで人間が成り立っているのか知る学問です。そしてそれが損なわれた場合の手助けをする、大事な仕事なんですね。

子どもとことば
岡本夏木 岩波書店 出典:Amazon

「ニャンニャンの記号化過程」…いきなりおもしろいでしょ。これは、なんでもかんでも「ニャンニャン」と言っていた赤ちゃんが、成長するにしたがって、動物とか、具体的な何を指して「ニャンニャン」と表すかを調べた研究です。

子どもにも、「頭の中ではわかっているけれど、うまくことばにできないだけ」という状況はたくさんあり、これはおとながことばを失った場合の研究にも大いに役立ちます。

そして、人間というものがことばを学ぶことを通じて、いかに成長するか、お互いに心を通いあわせていくか、そのことを教えてくれる本です。

ずっと読み進んで「おわりに」の章…ちょっと!!泣くやないか!!!

宮本輝さんの小説「錦繍」も思い出しますよ。

人間であること
時実利彦 岩波書店 出典:Amazon

いきなり「オレオピテクス」「アウストラロピテクス」の話から入りますからね、壮大ですよ。原始人からの人類の脳の進化をたどる話から始まり、脳の働きと、知性、感情、行動、人間の全体像を明らかにしていきます。
前半は脳神経系の学術的な話なのですが、そこを土台にして、文化や、芸術や、創造性について後半はもう、博覧強記、縦横無尽なエッセイになっていきます。僕もこんな本を書きたいんや。

人間であることはどういうことか?「入れ替りのない神経細胞に私があり、脳とともに私であるのだ」と著者は言っています。なるほど、よく「体の細胞は3ヶ月くらいで入れ替わっちゃう」なんていいますが、脳の細胞は再生・増殖しないんですよね。だからこそ、記憶喪失にもならないで自分が自分であることが続くとも言える。

著者・時実利彦さんのお話は、のちの養老孟司さんのお話に続いていくものがありますね〜。

「痴呆老人」は何を見ているか
大井玄 新潮社 出典Amazon
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今回のびっくり本。【驚愕コラム】ってほんとはこの本読んだからですよ。これ、おもしろいっていうか、すごい本です。痴呆は老化による記憶障害に始まり、世界とのつながりが失われて行く状態です。医師である著者は長年の診療を通して痴呆老人と向き合います。若い頃は痴呆という状態に「恐怖」し、治せない無力感からうつ状態にまでなりますが、そこからがすごい。

人間にとっての言葉と記憶、環境と倫理、人格と生命。「私」とは何か?「世界」とは何か?を考え始め、著者の歴史観、仏教観ともあいまって、「つながりの自己」の喪失という日本を覆う問題を見抜き、さらにアトム的自己(アメリカ型個人主義)のあぶなさへの指摘に発展します。

そして筆者の考えは発展します。ブッシュ大統領は痴呆とほとんど違わない、と。9.11からのアフガン戦争、イラク戦争…「探索像が知覚像を消してしまう」「人は見たいものを見る」…こういう痴呆に特徴的な症状が実は世界を大きく動かしていると。

痴呆老人への臨床から世界認識へ。こういう思考と著述のアクロバット。
これ、かつて僕が、

井上章一『美人論』(朝日文芸文庫)
佐藤健志 『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)
吉田守男『京都に原爆を投下せよ ウォーナー伝説の真実』(角川書店)
竹内久美子『賭博と国家と男と女』(文春文庫)
内田樹『下流志向』(講談社文庫)

などで得たアクロバット的な読書体験を思い出しました。ほら、こうやって20年前、30年前に読んで面白かった本のタイトルがいまズラズラ出てくるんだから、読書って値打ちあるよね。

著者は言います。
『われわれは皆、程度の異なる「痴呆」である』。

潜水服は蝶の夢を見る
ジャン=ドミニック・ボービー (著) 河野万里子 (訳) 講談社 出典:Amazon
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名著です。2007年にジュリアン・シュナーベル監督により映画にもなりました

難病、ロックド・イン・シンドロームに冒され、左目のまぶた以外のすべての身体的自由を奪われたファッション雑誌『ELLE』の編集長、ジャン=ドミニック。彼はこの状態を「潜水服に閉じこめられて海に沈められたようだ」と綴ります。想像を絶します。

「もし人が、すべてを失い、〈心〉だけの存在になったとしたら、世界は、そして人生は、どのように見えるのだろうか」…これはこの本の訳者のことばです。「脳では認識しているのに、外界とコミュニケーションできない状態」を克明に記録したこと自体がすさまじいのですが、これは彼の20万回のまばたきを文字に変換するという、気の遠くなるコミュニケーション方法で書かれた文章です。

それには言語聴覚士の指導が大きな役割を果たしました。ジャン=ドミニックは彼を指導した言語聴覚士を「守護天使」と呼び、こう綴っています。「言語療法は、もっと広く知られるべきものだと思う。舌というものが、ことばの持つあらゆる音を出すために、いかにさまざまな運動を無意識のうちに行っているか、まったく驚かされるばかりだ」

ジャン=ドミニックは言語聴覚士の助けを得て精神を健康に保ち、追想とユーモアと詩情に溢れるこの書物を遺しました。

僕はこのコラムシリーズの最初の回 【緊急コラム】田中泰延のエンタメ分党 源氏物語ガイドブックガイド
でも触れましたがオーストリアの心理学者、ヴィクトール・エミール・フランクルの「創造価値」、「体験価値」、「態度価値」のことを思い出しました。

病気になったり、囚われの身になったり、何もできない場合でも、人間は「態度価値」を生み出すことができるんですね。これは人間が運命を受け止める態度によって実現される価値なんです。

ジャン=ドミニック・ボービーは発病から1年4ヶ月、本書が出版された数日後に亡くなりました。

なかなか気がつきにくいことですが、言葉を発し、コミュニケーションできることは奇跡なのです。わたしたちはみな「奇跡の人」なのです。このことを忘れないように、ことばをうまく使えない症状の方、そして言語聴覚士のお仕事を理解しようと思いました。

…なるほど、これらの本を読み、京都学園大学・吉村貴子先生のお話を伺って思ったことは、自分の心も、世界も、「ことば」によってとらえられ、かたちを与えられ、そして世界がそのはたらきによってかたちを変えていく、というその重大さ、大切さです。

人が人であるために、僕が僕であるために、ことばに近づき、ことばで考え、ことばを使って生きていく。

そのことを考えさせてくれる本をお教えいただき、吉村先生、ありがとうござました。いやぁ、勉強って楽しいなぁ。今回もほんとにほんとに、そう思いました。

さて、京都学園大学で取材を続けるもう一人のライター、カツセマサヒコさんは今回…

とりあえず適当に写真を1枚載せるのやめてくれませんか。

ひろのぶさん

1枚があかんのか。

いや、違いがわからない似たような写真ですよね。あとこれ、朝一番で眠たいのに急に撮られてますから。

ひろのぶさん

でも、目を合わせてくれないさえりさんとは大違いでうれしいです。

そういう問題ではなく、知り合いから僕、「京都のほら、カツセの写真が適当に1 、2枚入ってるコラムあるよね?」って言われてますから。

ひろのぶさん

3枚ならうれしいのか。

さっさと僕の仕事を紹介したらどうか。

ひろのぶさん

…。カツセさんの記事はこちらです!

「日本人がよく間違える英語って、何ですか?」英会話の先生に聞いてみた

なぜ最初からできないのか。

ひろのぶさん

ついていきます。では、最後に、そろそろ目線をくれるようになったであろう、さえりさんを確認して今回はお別れしたいと思います。

ひろのぶさん

…。

…。
では、次回も京都学園大学からお届けします。みなさんまたお会いしましょう。

田中泰延
田中泰延

1969年大阪生まれ
株式会社 電通でコピーライターとして24年間勤務ののち、2016年に退職。ライターとして活動を始める。
世界のクリエイティブニュース「街角のクリエイティブ」で連載する映画評論「田中泰延のエンタメ新党」は100万ページビューを突破。
Twitter:@hironobutnk


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