大学でビールを造る理由を篠田先生に聞いてきた 「だって、イケてるじゃないですか」

大学でビールを造る理由を篠田先生に聞いてきた
「だって、イケてるじゃないですか」

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こんにちは、麦の中から失礼します。ライターのさえりです。
突然ですが、大学生の頃、ビールガブガブ飲んでいた皆さん。
また、大学生になったらビールガブガブ飲んでやろうと意気込んでいる皆さん。

授業でビールを造っている大学があるらしいですよ〜!!

ということで、今回も京都学園大学京都亀岡キャンパスにお邪魔しました。それにしても、ビールを造る学部って一体……。

詳しくお話を伺ってきました。

ビールを造る学部って?

今回お伺いしたのはバイオ環境学部食農学科食品開発コース発酵醸造学研究室の、篠田先生。

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篠田吉史先生

1971年 兵庫県西宮市生まれ。京都大学農学部農芸化学科卒、同大学大学院農学研究科修了。芳香族化合物の嫌気分解微生物の研究で博士号(農学)取得。(公財)地球環境産業技術研究機構、独フライブルグ大学博士研究員を経て、現在、京都学園大学バイオ環境学部准教授。帰国後は日本の応用微生物学の原点である発酵醸造学にフィールドを移し、地域や現場と結びついた研究の場の構築に努める。

篠田先生

ここが食品開発センターです。昨年できたばかりなのでまだ試験的な取り組みも多いのですが、ここでビールを造っているんです。最大で一度に100 Lのビールを造ることができるんですよ。

さえり

本格的な施設ですね。かっこいい……。けど、なぜ大学でビールを……?

篠田先生

そうですね、あとでゆっくり話しますが……、

篠田先生

理由を簡単にいうと「流行っているから」です。

さえり

えっ!?

さえり

流行りだから???

篠田先生

……ゆっくりお話しましょう(笑)。

京都産麦芽100%のビールを造りたい

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さえり

大学でビールを造っていると聞いて、「一体どういうこと!?」と思ったんですが、本当にそういう施設まであるんですね。

篠田先生

そうです。センターは全部で3億円かかっているんですよ。

さえり

す、すごい力の入れようですね! でもその理由について先ほど「簡単に言うと流行っているから」とおっしゃっていましたが、本当のところはどんな理由なんですか?

篠田先生

いや、流行ってるからですよ。

さえり

……。

篠田先生

……ちゃんと説明しますね(笑)。さえりさんビールは飲みますか?

さえり

あまり詳しくないですが、最近ようやく美味しいと思えるようになってきました。その土地ごとの「地ビール」とか、こだわりの「クラフトビール」とかも最近よく聞きますよね。

篠田先生

あぁそうですね。クラフトビールは流行ってますね。でもあれってほとんど原料は外国産なんですよ。

さえり

えっ、そうなんですか!? 地ビールっていうから、原料をその土地で作っているっていう意味かと……。

篠田先生

そう思ってしまいますよね。でも国産のビール大麦って、大手のビール会社以外ではほとんど使われていないんです。昔は全国で作られていたそうなんですが、いまはよほど良質なものが出来ないと儲からないらしいんですよね。

篠田先生

やはり日本は稲作が主体だし、ビール会社は安い麦を海外から輸入しちゃうから、農家さんもあまり熱心になれないんですよ。

さえり

知らなかった……。なんとなく「麦」って日本で多く作られているのかと思っていました。

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篠田先生

でもこの大学がある亀岡という土地は、100年以上ビール大麦を作り続けている。聞くところによると、ビール大麦の契約栽培の歴史は、京都府が日本で一番古いんだそうです。ビール用の麦は二条大麦という種類なんですが、100年以上昔に政府が「いろんなものを国産化しよう」と言って麦の種を配ったとき、「やります」と最初に手をあげたのが京都だったらしいんです。

篠田先生

その後、一時は京都中でビール大麦が作られていたようですが、今ではここ亀岡だけになんですね。それで、せっかく地元が唯一の京都産ビール大麦を作っているなら、ここで「京都産の麦を100%使用したビール」が造れないか、と思ったんです。

さえり

ふーん……なるほど……。京都産麦100%かぁ。

さえり

そんなに国産にこだわるって、やっぱり麦も海外のものより国産の方が美味しいとかあるんですか?

篠田先生

いえ、そんなことはないと思いますが(笑)、地元で作った100%のものがあるって、

篠田先生

かっこいいじゃないですか。

さえり

えっ、かっこよさの問題なんですか!?

篠田先生

そうですよ(笑)。ビールは嗜好品なので、「かっこいい」というのは重要ですよ。

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さえり

(先生ちょっと適当では?)

篠田先生

いや、100年以上の栽培の歴史がある由緒正しい麦が、もっと正当な評価を受けるようにしたいわけですよ。いろいろと状況はキビシイけれど大学が頑張って、農家が儲かって、地域が盛り上がる、そういう仕組みを作りたい、と。

篠田先生

同じ食農学科に麦の栽培の指導ができる先生がいらっしゃるので農家さんを助けて頂いて、我々はおいしいビールを造って。そうしたら亀岡だけでなく、京都のビールが盛り上がるのではないかなって。

さえり

なるほど……。(適当じゃないんだ)。

篠田先生

これからはそういう時代じゃないかなと思っているんです。各地にその土地でしか出来ないものがあって、それが全国に、あるいは世界に発信されていく。そうすれば、地域の資源が活かせて経済的にも盛り上がるし、各地の農家さんも儲かる、みたいな。

篠田先生

なにより、それってイケてる世の中だと思うんですよね。これだけモノが豊かになった時代、我々はこれからもっと違う形での“豊かさ”を目指さなきゃいけない。それは、地域の多様性、歴史や伝統といった「物量で測れないもの」が、しっかりといまに息づいた社会なんじゃないかと思います。日本がこれからも世界の中で尊敬されるには、もっとそんな風に「イケてる」国にならなきゃいけないと思うんです。

さえり

そのブームの火付け役みたいなイメージですか?

篠田先生

まあすでに他の地域も頑張っておられますが、京都、亀岡も負けてられないぞ、と。そして、そうした社会を創り出すことは、これからの大学の使命でもあるんじゃないかな、と思うんですよね。

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篠田先生

地域振興って、よく言われることですが、地域に固有の「地に足のついた」問題に取り組んで、地域の人たちと一緒に汗を流す大学も「アリ」だろう、と。どんどん海外に出て行こう! 国際化を進めよう! という風潮に逆らうようですが、本当に世界に通用するのは、「オリジナルなもの」でしょう?

篠田先生

地方にいる我々に何ができるか、ここでしかできないことはなんなのか、と考えたら、やっぱり地域の歴史や産業にきちんと根ざした学問なんですよね。ローカルなものを突き詰めて世界に通用するものを生み出す、それを通じて地域を盛り上げる、みたいなのは、これからの大学の役割なんじゃないですかね。

さえり

意外と深い……。「流行ってるから」ばっかり連発するのでどこの女子大生の発言かなって思っちゃってました。

篠田先生

(笑)。「地ビール」とか、「クラフトビール」とかが流行っているのは、みんな薄々そう思っているってことです。「ローカルなものが格好いい」と。世の中はそっちへ動いていく、ということだと思います。

ビールってどうやって造るの?

さえり

ところで、根本的な質問に戻ってしまうのですが……、

さえり

ビールってどうやって造るんですか?

篠田先生

ビールを造るには、麦と水とホップ、そして酵母という微生物が必要ですね。

篠田先生

まぁ難しい話の前に、ちょっと私たちが造ったビールを飲んでみませんか?

さえり

えっ、取材なのに飲んでいいんですか!!

篠田先生

どうぞどうぞ。

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(注:大学におけるビールの醸造は、研究・教育のために国税局から特別に許可を得て行うものであり、文字通り「飲む」ためではありません。口にするのは「官能検査」のためであり、写真のグラスも演出上のものです。)

篠田先生

小さいスケールで造る場合は、こんな感じ。これがいま造っているものですね。泡がぷくぷくと上がっていくのが見えると思いますが、これが酵母が糖を食べてアルコールを作っているところなんです。

さえり

ちょっとよくわからないですが、すごいですね。

篠田先生

……(笑)。そうなんですよ。酵母はすごいんですよ。

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篠田先生

で、瓶に詰めたものがこれですね。

さえり

先生お手製のビール!! これって、学生さんも飲めるんですか?

篠田先生

もちろん。研究なので成分の分析をするんですが、味も確かめないといけないですからね。

さえり

つくづく羨ましい学部だ……。

さえり

いただきます!

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さえり

あっ、美味しい!!麦の香りがすごい。それに後味がものすごく爽やかで、めちゃくちゃフルーティですね。

篠田先生

まだこれは研究途上なので商品じゃないんですけど、こんな風に造っては飲んで、造っては飲んで、もう少し苦みを足したいとか、柑橘系にしたいとか、そういう風にレシピを開発して、最終的にはそれを京都のブルワリーで造ってもらえるように、と思ってます。

さえり

ふむ……。先生は今回、こういう味にしよう!と思って造ったんですか?

篠田先生

そうですよ。もう少し苦味があっても良かったかなぁと思いましたけど。まだ始めたばかりで、思い通りの味を作り出せるようなレベルに達してないですが、いずれそういう風になりたいですね。いろんなテクニックを駆使して、作りたい味にしていくっていう。

さえり

学生さんも自分の好みのビールを造ったりできるんですか? 苦いのがいいなぁとか、フルーティなのにしよう! とか。

篠田先生

もちろんです。京都産麦芽の可能性を最大限発揮させる、というのがテーマなので、いろんな種類のビールを造れることを実証しなくてはいけません。

さえり

学校で自分の好きなビールをつくれるようになるなんて、いいですね。

さえり

ちなみに、どうやってその味の違いって生み出すんですか?

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篠田先生

ビールを作るには、先ほども言ったように「麦」と「水」と「ホップ」、そして「酵母」が必要なんです。ざっくり言うとビールの造り方は……

篠田先生

まず麦に芽を出させて「麦芽」にします(製麦)。これを砕いてお湯に浸けると、麦芽に含まれる酵素が働いて、デンプンから糖が出来ます(糖化)。十分に糖が出来たら、麦芽粕を除いて液体だけを取り出し(濾過)、釜に移します。このときに最初に出てくるきれいな麦汁が、いわゆる「一番搾り」というもので、この一番搾りだけを使った商品もありますね。

篠田先生

次に釜で麦汁をグラグラ煮て、その間にハーブの一種である「ホップ」を入れて苦味と香りを付けます(煮沸)。煮終わったら、今度はホップの粕などを除いた麦汁を10℃とか20℃とかにまで冷やして発酵タンクに送ります。
ここまでだと単に「ほろ苦くて甘いジュース」なのですが、最後にここに酵母を加えます。酵母がこの甘み=麦芽に由来する糖をアルコールと炭酸ガスに変え、ビールができあがるというわけです。

さえり

ほ…ほぉ……。いろんな工程があるんですね……。

さえり

一番難しい工程というか、醍醐味というか、そういう部分はどこですか?

篠田先生

一番大切なのは、酵母という微生物との対話することですね。

さえり

対話……?

篠田先生

酵母のおかげでアルコールができるだけでなく、もともとない香りや味なんかがでてくるんです。ちょっと話は逸れますが、日本酒はお米と水だけが原料(注:微生物としては麹菌と酵母が働く)なのに、ご飯とは全く違ったいい香りや味わいがあって、不思議だと思いませんか?

さえり

たしかに……。

篠田先生

ビールの味は麦芽やホップに由来する部分も大きいですが、どんな種類の酵母を使うか、どんな温度で発酵させるか、といったことで、味や香りが変わってくるんです。美味しいビールは、酵母が機嫌よく働いてくれないと出来ない。だから、まずは酵母と「友達になる」必要があるんです。彼らの「言ってること」が分からなくちゃいけない。

篠田先生

はじめての種類の酵母を扱うときは特に、こちらの与えた条件に対して、どういった答えが返ってくるかを見極める必要があります。酵母と「知り合う」期間と言ったらいいかな? で、だんだん、「こういうことをしたら、こう返ってくるな」って分かってきて、いわゆる対話ができるようになってくるんですね。

篠田先生

その過程が一番面白いです。

さえり

なるほど……。微生物も生き物ですもんね。愛情が必要ですよね。

篠田先生

そのとおりですね。学生たちにもそういう微生物との対話を楽しんで欲しいなと思っています。

さえり

なるほど……。

さえり

先生が楽しみにしていることってなんですか? やっぱりビールができて自分の名や大学の名が世に知れ渡ることでしょうか?

篠田先生

いや、たとえスーパーに並んだとしても「大学」や「私の名前」を前面に出す必要はないですよ。亀岡や京都が盛り上がればいいんだから。

篠田先生

私はもう、美味いビールが造れたらいいんです。何より、微生物と対話をしてモノが造れるっていうのが嬉しい。微生物と私が一緒になって美味しいビールをつくる。それが一番楽しいことですね。

さえり

かっこいい……。

さいごに

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ビールを造るという大胆な試みをしているこの学部。その奥には地域への愛と大きな野望が潜んでいました。

たまたま京都亀岡キャンパスにいた学生さんに「この大学の面白いところどこ?」と聞いた時に「バイオのところが一番面白そう」との意見も。「先生たちも優しいし、やっていることも面白そう」と学内の学生から思われているなんて、いいですよね。

先生曰く、「ビールだけじゃなくて、麹や甘酒、ワインなども造っているので、とにかく手を動かしてもの作りをすることが好きな人に来てほしい」とのこと。

研究室では数年後を目標に「京都産麦芽100%ビール」の商品化を目指しているとのこと。微生物との対話を繰り返し、愛情を持って造られたビールが、今後飲めるようになるのが楽しみです。(最新情報は、発酵醸造学研究室/微生物機能開発学研究室 Facebookページでチェックできるようですよ)

みなさん、流行りに乗るのは大事ですよ! 地域振興のブームに乗って、第一線を走り抜けてくださいね! それではベロベロの状態で、またね〜!

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さえり

書籍・Webでの編集経験を経て、現在フリーライターとして活動中。
人の心の動きを描きだすことと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。
好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。
Twitter:@N908Sa (さえりさん) と @saeligood (さえりぐ)

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