日本人の精神性は“ジブリ”に出ている?京都学園大学・山先生に聞いてみた

日本人の精神性は“ジブリ”に出ている?
京都学園大学・山先生に聞いてみた

行ってみた

豊かな緑の中から失礼します、ライターのさえりです。今回も京都学園大学、京都太秦キャンパスに来ています。

今回は、学生さんからこんな質問が寄せられました。

今回質問をくれたのは、健康医療学部 看護学科3回生の田中朱音さん、

学生

この前、友達と歩いていて急に思ったんですけど……。

学生

日本人の日本人らしさってどういうところにあるんですかね?

さえり

(この子は、普段何を考えて生きてるんだろう)。

学生

まあ、それが本当に知りたいのかって言われたらどうなんだろう〜っていう気もするんですけど、まぁもし教えてもらえるんだったら、知りたいなぁ〜って思ったり思わなかったり……。

さえり

(こういう曖昧な物言いがもしかしてすでに“日本人らしい”のでは)

さえり

わかりました! じゃあ、先生に聞いてきますね!

学生

ありがとうございます!

今回、このふわっとした質問に答えてくださったのは、人文学部心理学科の山愛美先生。

山愛美先生
山愛美先生

京都市生まれ。博士(教育学)。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。専門分野は、深層心理学、臨床心理学。著書『香月泰男 黒の創造』『言葉の深みへ』他。担当科目は、深層心理学、心理学概論、表現療法実習等。大学院では、心理面接特講、臨床心理学研究法等を担当。2002年日本心理臨床学会奨励賞受賞。

さえり

先生は普段どんなことを研究されているんですか?

山先生

心理療法ですね。人間の心の無意識の領域、特に表現されたものを通して、意識も無意識も含めて心のことを研究しています。人はどういう風に物事を捉え、それをどのように表現するのか。言葉にならないイメージはどのように表現されるのかあるいはされないのか……。芸術作品や文学作品などを研究しながら、それを制作することがその人にとってどのような意味があるのかを考えたり……。そういうことをしています。

さえり

ふーむ。作品として出されたものから、精神性を読み解くんですか?

山先生

読み解くっていう感覚はあまりないんです。あえて言うと「大事にする」という感じでしょうか……。

さえり

(むずかしい)。

さえり

先生、今回はすご〜くふわっと質問されてしまったのですが……、答えてくれますか?

山先生

綿菓子よりもふわっとしていてびっくりしましたが、わたしは常々日本の神々や、日本人の精神性について考えているので……。そういう視点からだったらお答えできるかな、と思います。

さえり

(常々、日本の神々について考える暮らしってどんなんだろう)。ありがとうございます!

さえり

さて、早速なんですが“日本人らしさ”ってどういうところに出ているんですかね……。

山先生

まあ、あらゆるところに出ますよね。考え方にも、行動にも、文化にも、作品にも……。人の生き方すべてに。

さえり

“作品”に出る日本人らしさ、ってどういうのがあるんですか?

山先生

たとえばジブリ作品、なんかを例えにしてよく話をすることがあるんですが……

さえり

(面白そう!)

“日本人らしさ”を意識せずに受け止めている

山先生

わたしたちはジブリ作品をごく当たり前に受け入れてますよね。けれど、宮崎駿さんの作る作品には日本人の深い精神性が反映されているんです。多神教的な考え方や、目に見えないものを“曖昧な存在”としてそのまま受け入れているところなんかは、本当に日本文化ならではだな、と思いますね。

山先生

たとえば、『千と千尋の神隠し』ってありますよね。あの作品では、湯屋にやってきた“神々”を癒していますよね。でもこの時点で西洋の人にとっては「?」なんです。

さえり

神がたくさんいるから……?

山先生

そうですね。英訳するときに「GOD」なんて言ったら西洋の人は大混乱ですよ。日本の「神」は「kami」と言って、それが何なのかをきちんと説明する必要があるでしょうね。

さえり

あぁ! たしかにそうですよね。なにげな〜く「神々」とか口にしちゃってますけど、その時点でかなり文化が反映されているわけですね。

山先生

はい。カオナシは妖怪ですが、彼も本当は「良い人」なのか「悪い人」なのかわからないですよね。悪いところもあるかもしれない、という曖昧さ、その不安定さ……。こういうキャラクターも日本ならではだとわたしは思っています。西洋だと、悪い奴は絶対的な悪、なんですよ。

さえり

あ〜! それ、妖怪を研究している佐々木先生も言っていました!
(参考:「妖怪は絶対にいません」妖怪を研究して30年の佐々木先生に話を聞いてきた)
妖怪は、悪いものでもあり良いものでもある。この曖昧さを受け入れられるのは日本人だからだ、って。

山先生

そうなんですよね。そういう多神教的な考え方を宮崎さんがどこまで意識してられるのかはわかりませんが、確実に表現されていると思いますね。

山先生

あと日本という国は、すごく“母性的”なんです。

さえり

日本は母性的?

山先生

はい。『千と千尋の神隠し』には母性的な側面が多く描かれていて……って、これを話しだしたら7時間くらいかかりますがいいですか?

さえり

手短にお願いしま……

山先生

あの作品に出てくる湯屋のお屋敷をコスモロジー(宇宙)としてみたときに、一番地下のところから鉄道が出て、銭婆(ぜにーば)のいる世界まで続いてますよね。

さえり

(答える前にはじまったぞ……)

山先生

銭婆のいる場所に向かうには片道切符しかないんですよね。あの場所は、黄泉の国、つまり死者の国だと考えられます。そして最上階、には湯婆婆(ゆばーば)が住んでますよね。湯婆婆には、溺愛している“坊”という子供がいて、ひどく過保護に育てている。さらに湯婆婆は、どんな客でも受け入れる……“受け入れる”っていうのはそもそも母性的ですよね。つまり、あの世界の中で君臨しているのはまず“母性”なんです。

山先生

母性が何でも“受け入れること”だとすると、父性は“良いこと・悪いこと”などを区別して「切る」役割なのですが、あの作品には そもそも“大人の男性キャラクターってあんまり出てこないですよね。

さえり

釜爺(かまじい)とかでしょうか……?

山先生

そう。あの地下に住んでいて、ちょっと頼りない釜爺しか父性を象徴しそうなものはありませんよね。でも、あのキャラクターは薬草を扱っていることから、どちらかというと“魔女”のような役割を担っていて、“父性”とはあまり言えないような気がします。しかも、湯婆婆が可愛がっている子ども“坊”の父親についても不明なまま。

山先生

じゃああの物語に、“父性”はどういう風に見られるのか。すごくむずかしいですよね。むしろ、女性であり母でもある湯婆婆が、経営者として”父性”的な役割も担っているところもありますね。千尋が必要としていたのは、母性なのか? 神々との接触を取り戻すことだったのか?いつも一緒にいる三つの頭は何なのか。彼らが”坊”のお父さんなのか?。

さえり

え……たしかに。どうなんですか!? ”坊”の父親って誰ですか? あの物語の“父性”ってなんですか?

山先生

ね。なんでしょうね……。

さえり

えっ。

山先生

えっ?

さえり

えっ。教えてくれないんですか?

山先生

あぁ、これはね、正解があるとかではないんですよ。そもそもここまで話してきたことも、わたしが研究している深層心理学や“心理療法“的な考え方で見たときのひとつの見方にすぎません。宮崎駿さんが本当にそう表現したかったのか、ということについてはご本人しかわかりません。時には本人が考えている以上のことが表現されることもあるでしょうし・・。

さえり

う、うぉぉぉぉ。すごく気になってきました……。

山先生

来年あたりに『千と千尋の神隠し』と日本文化、神々について英語で書いた本が出るので、読んでみてください。

さえり

うーんと、日本語が良かったです。

さえり

でもたしかに、ジブリ作品には多くの隠れた描写があるって聞いたことありました。風が主人公の心理的成長や心の動きとかなり連動している、とか。先生がおっしゃった、宗教観や日本人らしさみたいな表に出てこない価値観も全部計算されて描かれているのだとするとすごいことですよね。

山先生

そうそう。本当に観るたびに発見がありますよ。後ろでちょろっと動いたものが、なにか大事なことを意味しているかもなって思えたりして。

さえり

観続けていれば、先生みたいにジブリをみて父性とか母性とかわかるようになりますか?

山先生

あ〜……。どうでしょう。そんな風にあまり分析しようと思って観始めると、つまんないですよ。わたしはまず作品の中に入って楽しみながら、同時にアカデミックな見方もしていますが、本当は、作品っていうのは「おもしろいな」って観るのが一番だと思いますよ。作品の中に入って一緒に体験するような感じで。

さえり

えぇ……。まぁそうなんですけど、もっといろいろ知りたいです……。

山先生

それにああいう作品っていうのは、大人よりも子供のほうがよっぽどよくわかっていたりするんです。『千と千尋の神隠し』でも、息しちゃダメって言われて鼻をつまんで橋を渡るシーンがあるでしょ。あそこで、子供達は一緒に息を止めてる子が多いんですよ。物語を体でしっかり体験することができる。

山先生

大人になると、どうしても難しく考えるようになってしまって、頭だけで物語を観る人も増えちゃうんですよ。それはそれでしょうがないですけれど、もったいないし、何か残念ですよね。

山先生

物語は、その中にはいっていかないとわからないことがたくさんあるので、最初から「分析しよう!」とか思いながら観ないほうがわかることがたくさんあるんじゃないかと思いますね。

さえり

なるほど……。

山先生

ちょっと話が逸れてしまいましたが……。

山先生

わたしたちが何の疑問もなく触れている物語には、わたしたちが意識している以上に、多くの日本人ならではの精神性が宿っているものです。それらを難しいことを考えずに再度感じ取るだけでも、何か答えが見つかるかもしれません。

山先生

日本人は“意識していない”部分がすごく多いんですよ。自分が持っている感覚を忘れている人たちがすごくいるんです。意識していないけど、日常の中で宗教的な感覚を生きてるっていうのは特徴だと思いますね。眼に見えない神々といったようなものの存在をどこかで感じているというか……。

さえり

たしかに「無宗教です」とか言ってる人も、自然と「トイレの神様」を歌えたり受け入れたりすることに抵抗なかったりしますもんね。身の回りにあるものをもう一度見つめ直すだけで、何か見えてくるものがあるかもしれないですね。

日本人が捉える“わたし”は、“過程”にある?

山先生

日本人ってね、自分ひとりで“わたし”を捉えるよりも、周りとの関わりやその場所との関係などから“わたし”を捉えることが多いんです。関係の中に入って体感しながら理解しようとする、というか。

さえり

うーんと、どういうことですか?

山先生

庭園を例にとってよく説明をするのですが……、西洋の庭園と日本の庭園って構造的に大きな違いがあるんです。西洋の庭園は、領主がいる高いところが中心となって、そこから見た時に、全体が見えて、一番綺麗に見えるように作られている。でも、日本の庭園には中心ってないんです。お庭の中を巡り歩いて、次々に変わる景色を楽しむことができるようにできている。

山先生

これを、心におきかえても一緒なんです。物事を見る時に、中心があって、物事を外から客観的に見る見方と、中に入って体感しながら見ていく見方があって。“わたしって何?”“わたしは日本人らしいの?”の問いの答えも、同じようにゆっくりと自分自身を見つめていく過程の中でしか見つけられないものなのかもしれません。

さえり

なるほど……。日本のほうが、物事を体感しながら、周りが変化していくのを楽しみながら、物事を理解していくって感じですかね。

山先生

うーん、そうですね。西洋と日本の見方、どちらがいいとか悪いとかという話ではないですよ。日本人は、あまり意識せずに曖昧さをそのまま受け取れる代わりに、白黒はっきりしないところを感じ取ってうじうじしてしまうようなこともありますしね。

さえり

当たり前すぎて気づいていないだけで、日本人って独特なのかもしれないですね。

山先生

もちろんどの国の人も独特といえば独特なのですが、特に欧米の人たちと比べるとかなり違う部分はあるでしょうね。そういう意味で、日本人が作るいろいろな作品は、やはり欧米の人たちから見ると特異に見え、興味深いのもしれませんね。

山先生

ところで、村上春樹さんの作品も日本庭園っぽいですよね。

さえり

あぁ! そう言われると急に上手にイメージできました! 何かを捉える時に、中心があるのではなく、過程で捉えていくというか。

山先生

そうでしょう。村上春樹さんは、何かはじめに自分の言いたいことがあって書いていくんじゃなくて、無意識の領域に降りて行って、それを見つけるために書いているとおっしゃっているくらいですから。初めからゴールがあるのではなくて、進むうちにゴールが見えてくる。過程の中で、何かを見つけていく。これは本当に日本人らしいやり方と言って良いと思いますね。

さえり

ふーむ。面白い。あまり考えていなかっただけで、本当にいろいろなところに日本人らしさって宿っているんですね。

山先生

そうですね。だから学生さんの質問の回答として、ひとつのものをあげることはできないんですが……。でも本当に、あまりいろいろなことを意識せず、自然に触れているそのこと自体がそもそも日本人らしいってことがあるんだと思いますよ。それに、急いで何かを見つける必要もない。ゆっくり悩む過程の中で見つけていってもいいと思います。

さえり

ふーむ。今日はありがとうございました!

さえり

ってことらしいよ。どうかな。

学生

うーん。たしかにそうですね。気づかないだけでいろんなところに日本人らしさは眠ってるんですよね。なぜか急に気になって聞いちゃったんですけど、よく考えてみたらわたし普通に日本人らしいところたくさんあるなって。

学生

あとジブリがいろんな心理描写や日本人らしさを描いているってこと、言われてみるまで全然気づきませんでした! 今度、もう一度見てみます! ありがとうございました!

さえり

良かったです! わたしもジブリの心理描写に関しては本当に気になるな〜と思ったので、もっと勉強しようと思います。今回はありがとうございました!

学生

ありがとうございました!

さえり

ねえ先生!いま風が吹いて髪が揺れたっていうシーンを挿入して、宮崎駿さんと同じ手法で、彼女の心の成長という深層心理を表し、日本人ならではの繊細さを表現してみました!!!

山先生

あ、そうですか……。

さえり

……。今日はどうも、ありがとうございました。

さえり
さえり

書籍・Webでの編集経験を経て、現在フリーライターとして活動中。
人の心の動きを描きだすことと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。
好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。
Twitter:@N908Sa (さえりさん) と @saeligood (さえりぐ)

あわせて読みたい さえりさんの記事

トップページ > 日本人の精神性は“ジブリ”に出ている?京都学園大学・山先生に聞いてみた

入試に関するお問い合わせ

入学センター

Mail nyushi@kuas.ac.jp

Tel 075-406-9270

ページトップへ