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先生に聞いてみた【90】前田 正史 教授(後編)

更新日:2018年12月26日(水)
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京都学園大学でユニークな研究に携わる先生に突撃インタビューする「#聞いてみた」シリーズ。 今回は、89回目と90回目の2回にわたって、次期学長就任予定の前田正史先生にいろいろ聞いてみました。後編は先生の歩まれてきた道や研究内容についてです。

「先生に聞いてみた」前編(89回)はこちら

Q:どのようにして研究の道に入られたのでしょうか。

父母ともに教員という家庭でした。出身は和歌山県田辺市ですが、生まれて間もなく関東へ居を移して東京近辺で育ちました。思い返してみると、ずっと数学や物理の教科が好きでした。高校ではブラスバンド部でトランペットを吹いていました。
そして、1972年に東京大学理科1類に入り、大学でもオーケストラの一員として、部長役をしていましたが、熱心なあまり進学に必要単位が不足するに至り「これではいけない」と、3年で卒部しました。現在、東大オケOB会の会長として他のOBとともに現役支援をしています。

その後大学院に進み、博士課程も終え、工学部の助手になった後、カナダのトロント大学へ、今で言うポスドク(任期付き研究者、博士研究員)として勤務しました。そこでは主に大学院生を指導していました。大学院生は真面目で、自分の生活がかかっているので必死です。日本の親掛かりの学生とはずいぶん違うなと思いました。

この海外生活では、北米人との価値観の相違をはじめ、文化的な面や気候の違いなどを通じて、いろいろな意味で鍛えられました。気候では、冬場に「フリージング・レイン」という気象現象がたまに起こります。これは名前の通り、雨が凍ってしまうほど、周囲が氷の世界に変わってしまう気象現象です。雨が地に落ちた瞬間、氷点下の道路に接触して凍り、走っている車のボディーがアイスキャンデーの表面のようになります。道路もスケートリンクのようになるので、これは本当に恐怖です。実際に、オタワ近郊の原子力研究所に向かっている際、路肩のトレンチに時速100キロ近くで転落したことがありました。幸い、私も家内も無事でした。その時、トレンチ底の落ちた車に居た私たちに現地の方が温かいコーヒーなどを持ってきて下さり、困っている異国からの訪問者に対する優しさを感じました。

そうした海外での体験を経て、東京大学に再び戻りました。私の歩んできた道で少し特徴的なのは、若い頃から研究活動とともに、大学組織全体を見渡す管理的な仕事に携わってきたことです。30代半ばで東京大学生産技術研究所の所長補佐を命ぜられ、その後、総長補佐、研究所長、理事・副学長などを務めました。

Q:ご専門の分野や研究内容について教えてください。

私の主な研究における専門分野は、「材料プロセス工学」です。わかりやすく言うと、産業界で求められる金属やガラス、セラミクスなどをいかに合理的に作り出すかという研究・開発です。太陽電池を作るために必要な“適度な純度の”半導体シリコンを安価に作る方法を提案し、大学発“日本初”の製造業ベンチャー事業として、太陽電池用シリコンの製造技術開発などに携わってきました。この企業は一時、日本全体の太陽電池用シリコンの3割程度を生産する企業になりました。

そして、これまで主要な研究テーマとして取り組んできたのが、ベースメタルの枯渇化に対応した金属資源のリサイクルです。今では、一般語としても通用している「都市鉱山」は、私と親しい研究者の間で初めて名づけられた言葉です。レアメタルとも呼ばれる希少で特殊な金属が、不要となった電子機器等(携帯電話、小型電源等)の中に眠ってしまっているという現状に着目して研究を進めました。
これは、わが国のようなものづくり工業国家にとっては緊急で切実な問題でもありますし、今後もさらなる研究開発が求められる大きなテーマです。

Q:本学、そして永守理事長との出会いについて教えてください。

私が以前所長をしていた東京大学生産技術研究所に、本学の永守理事長が来所され「大学の研究所がここまでやっているのか」と評価していただきました。そうしたご縁もあって3年前に日本電産(株)の生産技術研究所の立ち上げに参加し、初代の所長になりました。今まさに先端で動いている産業界の軸となり、その未来を拓いていく生産技術のトップランクの研究所であると自負しています。

工学研究は始めに研究テーマありきではありません。顧客(カスタマー、あるいは社会)の求めているものがあっても、具体的に何が欲しいのか、顧客が分からないケースが多いのです。これらの「アンメット・ニーズ」(充足されていないニーズ)を見通す事が大切です。ただ、そこまでわかったとしても、どのような方法で形作っていくのかという、生産技術とその設備を開発する必要があり、これが大変なのです。
すべては、社会、顧客など、現場が求めているものに、より明解な解答で応えていかなければならず、常に緊迫感があります。

Q: 「アンメット・ニーズ」に応えるためには?

前編でお話した、工学部開設の基本構想とも共通するのですが、「アンメット・ニーズ」に即応できる「ストリート・スマート」な学生を育てることが大切です。まず、現実のストリート(現場)にニーズがあり、さらにその先を見越した社会の目標達成(顧客満足)を形あるものにしていかなければなりません。

そこで、重要になるのが“ニーズの目利き”です。私は、“技術の目利き”というものは信用していません。オカルト技術であるかどうかは誰が見てもわかりますし、真に価値のある技術かどうかはお客様が決めることです。顧客がこういうものを欲しいと言っているが、本当に欲しているのか。実は別の機能を求めているかもしれません。面前の、ど真ん中に一つのニーズがあり、その周りや向こう側に無数の「アンメット・ニーズ」があります。これらすべてにスピード感をもって見極めていくのが先端的な研究の役割なのです。
同時にニーズに対する解答も複雑に重なってきます。すべてを満たさないと、顧客満足の創造にはならないのです。

よく、産・官・学の協同という理念が語られますが、そのままではほとんど成功しません。産と産、官と官、学と学、それぞれの密接な連携を深く保ちながら、ケミストリー(融合・反応)を醸成し、さらにそれらが包括的に協同する、大きく深いベクトルの結びつきが重要だと常々考えています。

Q:最後に学生へメッセージをお願いします。

高校生までは、どちらかと言うと確定した価値観を持つ“教科書”を中心に学習していきます。大学では教科書に書いていることを疑う、書いていないことをその延長線上で学んでいきます。教員と対等に討議できれば素晴らしいと考えています。ですから、新たな教科書を「自分がつくる」というくらいの意欲を期待しています。

最初は、語学を始め基礎的なことを修得します。できれば、母国語以外にあと2ヶ国語くらいは理解できるようになってほしいと思っていますが、まず一つは英語です。それから、異分野の方の話にも耳を傾け、好奇心を養ってほしいと思います。好奇心や感性は、「アンメット・ニーズ」を掘り出していくためには不可欠です。

また、様々な仕事の現場を体験してもらえたら、自分の学んできたものがどのように社会に実装されているのかを実感できるのではないでしょうか。インターンシップなどの制度を強化して、皆さんにあらゆる機会を提供できるようにしていきたいと思っています。
また、全学の多くの学生諸君に、ものをつくる喜びを常に体感してほしいです。私たちが若い頃は、実際に道具を手にしてラジオを分解したり、組み立てたりしたものですが、今の人たちは材木や金属に穴を空ける機会もあまりないと思います。そのため、材料の固さや加工の難しさを実感しにくくなっています。ロボコン(ロボットコンテスト)などのコンペに参加し、ある種のものづくりの達成感を身体で感じてほしいと思っていますし、そのような機会を設けたいと思います。工学部の学生に閉じる必要はありません。教員の中には学生F1(全日本 学生フォーミュラ大会)に参加したいという声も上がっています。
2019年4月、京都学園大学は京都先端科学大学へ変わります。皆さんとともに、世界を変える活動をしていきたいと思っています。よろしくお願いいたします。

「先生に聞いてみた」前編(89回)はこちら

前田正史(まえだ・まさふみ)教授 副学長〈次期学長〉

博士(工学)。東京大学工学部卒。東京大学大学院工学系研究科金属工学専攻博士課程修了。カナダ・トロント大学、東京大学生産技術研究所所長などを経て、東京大学理事・副学長を歴任。2016年より日本電産株式会社生産技術研究所所長(非常勤)。研究分野は、「金属生産工学」「資源リサイクル」。
主な著書として『ベースメタル枯渇-ものづくり工業国家の金属資源問題』(日本経済新聞出版社・西山孝との共著)がある。

前田 正史 先生の紹介はこちら

突撃インタビュー「# 聞いてみた」