京町家新柳居市民講座「農業と環境」の第2回目「環境に配慮した野菜の栽培」を開催しました。

2018年11月27日トピックス

「環境に配慮した野菜の栽培」

バイオ環境学部食農学科 佐藤隆徳 教授

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「農業と環境」について、物質循環・環境保全・品質改良の三つの切り口で、市民の皆様とともに考える、本学バイオ環境学部による京町家新柳居市民講座の第2回目が、2018年11月9日(金)、京都太秦キャンパスで開講されました。

第2回目のテーマは、本学 バイオ環境学部食農学科 佐藤隆徳教授による「環境に配慮した野菜の栽培」です。

今回はより私たちの暮らしに身近な、野菜の栽培にまつわるお話です。野菜の栽培では、特有の病気や害虫に悩まされることがよくあります。すぐに念頭に浮かぶのが、化学農薬等を使用する防除対策ですが、周辺の環境への影響などを配慮すると、それとはまた別の方法を考えていく必要もあります。そうした今とこれからの時代に適応した野菜栽培のいくつかの農法を概説していきました。

まず農業生産と環境問題の関わりについて歴史的な話から始まりました。背景となっているのは、1940年代から1960年代に世界各地で起ったムーブメントである、『緑の革命』(グリーン・レボリューション)です。
それまで私たち人間にとって食糧となる作物の収穫量は決して十分ではなく、各国各地域では大飢饉に至ることも少なくありませんでした。そこで「より高い収穫量が得られる品種の導入」「効率の良い灌漑などの敷設」「化学肥料や農薬の大量投与」などの抜本的な施策が取り入れられ、収穫量の飛躍的な向上・改善が果たされました。これが緑の革命です。ところが、この農業生産の飛躍的な拡大は図らずも、現在私たちが直面している環境問題の要因の一つになってしまったのです。

本来、農業は自然界における、水や窒素、炭素といった物質の自然な循環を利用して生産を行います。つまり、水、土、生き物で成り立っている循環を阻害することなく営んでいけば、自ずとそれらの健全で豊かな環境保全に貢献できるのです。これが持続可能な農業生産です。農地は、適切な生産活動によって多様な生き物が生息するようになり、美しい里山や農村の景観が形成されていきます。また生き物から得た堆肥などを投入することで、有機性資源の循環利用を促し、循環型社会形成の役割も担っているのです。

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さてこのような前提や背景が述べられ、実際に様々なかたちで取り入れられている「環境に配慮した野菜栽培」の例が紹介されていきました。それは、主に化学肥料や農薬に極端に依存することのない、農業という物質循環や環境保全に貢献する特色を本来のかたちに立ち返る方法とも言えます。

紹介されたのは、IPM(総合的病害虫・雑草管理)という防除法です。これは、作物の生育に害となる病害虫に対して、その天敵(生物的防除)や粘着板(物理的防除)等の方法を組み合わせて、環境への負荷を低減していく防除技術の総称で、この体系には他にも、雑草などの生育を抑制する耕種(生態)的防除なども挙げられます。この中には、同じほ場に同じ種類の作物を継続して栽培する連作よりも、違った種類のものを組み合わせて栽培する輪作の方が、病害虫の発生軽減に効果があることも紹介されました。

また、生物的防除では、害虫であるアブラムシに対してその天敵であるテントウムシをそばに放飼する(放してやる)方法や、アブラムシと共生するアリの駆除など、農薬に頼らない種々の有効な方法も示されました。さらに、物理的防除としては、各種素材を利用した被覆栽培や環境に負荷を与えない生分解性マルチ栽培なども紹介されました。

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最後に、自然農法や有機農法、環境保全型農業から旧来の慣行農法など、いわゆる環境に配慮したオーガニック・エコ農業の現況についてデータを交えて示されましたが、現状ではまだまだ収支ベースで課題も多いことも語られました。

質疑応答でも活発な質問が続き、実際に様々な農法を実践されておられる市民の方々から、現場に即したご意見をうかがうことができました。

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