京町家新柳居市民講座「農業と環境」の第3回目「環境にやさしい野菜の品種作り」を開催しました。

2018年12月13日トピックス

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「農業と環境」について、物質循環・環境保全・品質改良の三つの切り口で、市民の皆様とともに考える、本学バイオ環境学部による京町家新柳居市民講座の第3回目が、2018年11月16日(金)、京都太秦キャンパスで開講されました。

第3回目のテーマは、本学 バイオ環境学部食農学科 大城おおきしずか教授による「環境にやさしい野菜の品種作り」です。

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今回は、環境保全に配慮した、新しい野菜の品種についてのお話です。まずその背景となっているデータが示されました。
地球温暖化に関わる、二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素などのガスを排出する比率を様々な産業部門別に比較した場合、日本における農林水産業から排出される割合は3%と他の部門と比べて低い数値となっています。ただ、農業が地球温暖化に大きな影響を与えていることは事実で、その主な要因は、農業機械と施設園芸があげられます。圃場での耕起作業、また、暑さ、寒さなどの温度を調整するためにはエネルギーを消費する様々なシステムが必要となるからです。それに伴い、農業機械や農業施設の省エネルギー対策などの改良も進められ、温室効果ガス排出の削減に向けた一定の実績も上げてきています。

そうした背景の中で、さらに環境保全に配慮した方策として注目されるのが、今回のテーマである「環境にやさしい野菜の品種作り」としての「育種」です。つまり、農薬やエネルギーの使用に依存することの少ない、病虫害抵抗性品種や耐低温(耐暑)性品種を作出する育種技術の発展が求められているのです。

育種には、様々な手法がありますが、はじめに「交雑育種」について紹介されました。大きく分けて「選抜育種法」と「一代雑種育種法」の二つがあります。
選抜育種法とは、目標の形質を決め両親を選定して交配し、自家受精によって得られる子孫の中から目標に合致した形質を持つ個体の選抜を繰り返す方法です。ただ、この方法は育種に年数を要することと、自家受精によって「近交弱性」による弱い個体が増加するという欠点があります。
それを補う方法が、一代雑種育種法です。これは、あらかじめ選抜した遺伝的に遠縁の2系統を交雑して得られた雑種第1代の種子を生産に使用する方法です。「雑種強勢」を利用することで、より優れた特性を生みだし、近交弱性から回復させた均一な品質の作物を成育させることができるのです。

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「話は少しそれますが」と、トマトの新たな品種づくりが紹介されました。
それは、南米ペルーに自生しているトマトの野生種の話です。元々とても小ぶりで、江戸時代に日本に持ち込まれた時は主に鑑賞用でしたが、昭和になってから今の日本人の味覚に合うような品種づくりが始まったそうです。

さて、ここでのテーマは、トマトの「品種づくりを短期決戦で」です。育種の目標は、高糖度で濃厚な味があり耐病性に優っている品種づくりです。雌親に高糖度のミニトマト、雄親に耐病性のある高品質の大型トマトを交配し、その孫の世代から選抜すると甘くて大きなトマトが誕生します。そして次に選抜された優良個体に種子を使わず、その個体の茎の組織を無菌培養でクローン化して殖やしていくという、さらに進んだ組織培養法について説明が続きました。このクローン化によって得られた個体は「越のルビー」という銘柄で、福井県で生産され既に流通しており、世界で初めての試みだとのことです。

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さらには、もっと進んだ方法として、受粉や受精を行わずに果実を大きくする「単為結果性」について話をされました。これは、いわゆる「種なし果実」のことで、バナナやブドウでは既に一般化してきています。トマトは高温時や低温時には花粉を作らず結実しないため、農家はホルモン処理や加温をしています。本学の農業生産学研究所では、トマトに単為結果性を導入してこのような手間を省き、より少ないエネルギー消費で栽培できる品種の育種を試みています。得られた優良個体の親株を組織培養によって維持し、ガラス温室で水耕し、それを接ぎ木しながら生産用苗として供給するシステムが確立しつつあることが紹介されました。

このように「環境にやさしい野菜の品種作り」では、施設や機械などのハードやシステム面の改善だけではなく、植物が本来持っている特性や力を最大限引き出していく新たな育種開発が求められていることが述べられて、今回の話を結びました。

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質疑応答では、実際にトマトをはじめ野菜を栽培されている方々から具体的な質問も活発に寄せられました。

今回、3回にわたって開講された「農業と環境」シリーズでは、その背景となっている切実な課題への理解のほか、今からでも農業の現場で実践可能な様々な方法が示されました。 皆さん、真剣に先生方の話に耳を傾けていました。

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