【人文学部ニュース】講演会「嫌な気持ちとのつき合い方」盛会に終了しました

2019年08月09日トピックス

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7月21日、本学京都太秦キャンパスにて、人文学部校名変更記念講演会第2回「嫌な気持ちとのつき合い方~どう理解する?どうケアする?」が、人文学部および人間文化学会の主催、京都市・京都新聞の後援で開催されました。心理学に焦点づけた講演会としてはこれまでになく多い216名もの方にお越しいただき、北館で最も大きな教室が満員御礼となりました。

今回の講演の見所は、実験や調査を主とする“基礎心理学”と現場での対人援助を主とする“臨床心理学”という2つの異なる立場から、「嫌な気持ちとのつきあい方」について紹介するというものでした。

第一部「基礎心理学の立場から」服部陽介

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講演の第一部は基礎心理学の立場から、服部陽介人文学部講師による「意外と知らない落ち込みの話―落ち込みと付き合うために―」でした。落ち込みという感情の負の側面だけでなく、適応機能についても言及がなされ、最後に落ち込みとどのように付き合うかについて紹介がなされました。詳しい内容は「参加記」をご覧ください。

第二部「臨床心理学の立場から」久保克彦

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講演の第二部は臨床心理学の立場から、久保克彦人文学部特別教授による「糖尿病の陰性感情をケアする」でした。長年にわたって医療現場で臨床心理士として働いてきたご経験から、糖尿病患者に湧き起こる陰性感情、そしてその感情に対して実際に行われている支援について紹介がなされました。詳しい内容は「参加記」をご覧ください。

会場からは質問が絶えず、時には笑いも交えながら、和やかに終了いたしました。

以下、人文学部生の参加記、ご一読ください。

(人文学部 准教授 飯野秀子、講師 神原歩)

学生参加記

第一部 学生参加記

「基礎心理学の立場から 意外と知らない落ち込みの話」の講演を聴いて

人文学部心理学科1年  阿部 広実

落ち込みとは人の気持ちが沈むこと、生き生きとした様子が失われること、突然何らかの理由で消沈すること等、様々な言葉で表現される。感情心理学・臨床心理学では「抑うつ」という言葉で表現する場合が多く、うつ病の主症状の一つである抑うつ気分と対応する。この落ち込みについて知ることが、落ち込みと上手く付き合うことにつながる。

落ち込みは心的なコストとなり、情報処理を妨げる、活動性・生産性の低下を伴う、ネガティブな思考を招く、といったネガティブな側面を持っている。しかし、落ち込みによって考えが変わるのはネガティブな方向にばかりではない。落ち込んでいる状態になると物事を慎重で詳細に考える分析的な思考が促される。また、自分を変えるだけでなく、他者を動かす側面もある。落ち込みというコストを負っていることを他者に示すことで、援助や譲歩を引き出す効果がある。

また、通常、我々人間は、特定のテーマについて、「考えないように」思考をコントロールすることができる。しかし、落ち込んでいるときには、情報処理に必要なエネルギーが失われ、思考のコントロールができなくなる。また、「考えないように」努力するほど、その出来事を思い出したときの不快感やネガティブ感情が高まる。これをリバウンド効果という。そのため、落ち込みを意図的に抑えようとすることはかえって落ち込みを強め、逆効果になってしまう。落ち込みに効果がある方法として、気逸らし、別の視点で考える(認知的再評価)、感情を表に出す(自己開示、筆記法)が挙げられた。しかし、これらにはそれぞれ心の負担となってしまうようなリスクもあり、万能な方法とはいえない。

落ち込みと上手く付き合うためには、無理に抑えようとしないこと、自分の落ち込みやすさを把握し、悪化させないようにすること、また、友人に打ち明ける、ノートに書き出すなど自分に合った表出方法を模索することが大切である。

私自身、落ち込んだ出来事を「考えないようにしよう」、「忘れよう」と考えることで余計にそのことを考えてしまい辛い思いをした経験がある。意識している間は負担を感じていたが、部活動に打ち込んだり、友人とたわいもない話をしたりしている間に気分が回復していたように思う。無意識のうちに気逸らしをしていたのだろう。今回の講演を通して、自分自身と向き合い、それぞれに合ったケアをすることの大切さを改めて知ることができた。今後の勉強だけでなく、学生生活にも活かしていきたい。

第二部 学生参加記

「臨床心理学の立場から 糖尿病の陰性感情をケアする」の講演を聴いて

人文学部心理学科1年  中村 悦子

今回は「嫌な気持ちとのつき合い方」をテーマに、長年にわたって医療現場で臨床心理士として働いてこられた久保先生が、実際の経験をもとに、糖尿病患者の陰性感情のケアについて、臨床心理士の立場からの考えを述べた講演でした。

まず、糖尿病とは、インスリンが不足する、または働きが悪くなり、血液中にブドウ糖を蓄積してしまう病気です。日本では6人に一人、中高年に限れば3人に一人が糖尿病、または糖尿病の可能性があるといわれています。糖尿病にはインスリン分泌が極端に低下する1型と、インスリンが上手く働かなくなる2型があり、ほとんどの患者は2型です。また、糖尿病が慢性化すると合併症の可能性もあります。

治療法としては、食事療法、運動療法、薬物治療、インスリン治療などがあります。その中で、食事療法と運動療法については、3か月後には約60%の人しか続けることができていないということでした。このことから、セルフケア(自己管理)することはたいへん難しいということが分かります。糖尿病患者が取り組まなければならない自己管理は多岐にわたっており、この自己管理が複雑であったり時間的制約が大きかったりすると、患者のQOLを低下させることが知られており、自己管理は実行されにくいのです。患者は、例えば「なぜ自分だけがこんな食事をしなければならないのか」といった怒り、「好きなものを食べる自由を奪われてしまった」という悲しみ、さらに孤独や絶望などの陰性感情を持ちます。そして、糖尿病やその治療に対する様々な感情的問題を抱えて、自己管理に上手く取り組めない患者は多く、この感情問題を調整し病気状況に適応できるように援助する必要があるのです。

さらに、久保先生が実際に行ってこられた糖尿病患者のグループ療法についてのお話では、対人援助の必要性や重要性がよく理解出来ました。グループ療法の目的は、患者が他のメンバーとの交流の中で、糖尿病をめぐる様々な感情を整理し、糖尿病の自己管理に積極的に取り組む姿勢を作り上げ、糖尿病をしっかりコントロールしていけるようにすることです。Yalom(1985)の治療促進因子によると、メンバーの話を聞くうちに、悩んでいるのは自分だけではないことが分かって安心感を得ることができたり、グループの中で自分の感情を表現することができると気持ちが楽になるなど、グループ療法に中で起こる治療促進因子によって陰性感情が減少するというデータも得られています。

今回の講演を聴いて、医療現場での臨床心理学の立場から見た陰性感情のケアの重要性をとても感じました。医者は治療方法を教えてくれますが、それを患者が実際に行動に移せるかというと、なかなか難しいと感じます。講演内で久保先生が仰っていた「医者は治療を守る患者が正常であると思い、心理学者は守らない患者が正常であると考える」という言葉がとても印象に残っています。医療の現場で出てくる様々な陰性感情は、臨床心理学の立場から考えることで、その嫌な気持ちが少しでも減り、上手く病気と付き合っていくことにつながるのではないかと感じました。

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