公開講演会「日本経済の現状と課題 -『令和4年度経済財政白書』を中心に-」を開催【経済経営学部】

2022年11月17日トピックス

2022年11月12日(土)、本学京都太秦キャンパスのみらいホールにて、「白書で学ぶ現代日本」の公開講演会「日本経済の現状と課題 -『令和4年度経済財政白書』を中心に-」が開催されました。

第1部 基調講演 タイトル:「日本経済の現状と課題ー令和4年度経済財政白書を中心に-」  講師:鈴木源一朗氏(内閣府)
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講演に立つ内閣府の鈴木源一朗氏

第1部の基調講演では内閣府の鈴木源一朗氏による、『令和4年版経済財政白書』を中心とした「日本経済の現状と課題」についての解説が行われました。

白書第1章「経済財政の動向と課題」では、日本経済はコロナ禍での政策対応の効果もあり回復基調が続いている一方で、今後はコロナ禍を経た社会の行動変容や国際経済環境の変化などにも備えていく必要があることを指摘されました。また、日本経済は「スタグフレーション」の状況にはないが、「経済あっての財政」という前提に立ち、経済を賃金と物価が共に安定的に上昇していく成長軌道に乗せた上で、持続可能な社会保障制度の構築、財政健全化を一体的に推進していくことの必要性が強調されました。

白書第2章「労働力の確保・質の向上に向けた課題」では、一人当たり賃金が上昇しない背景として、デフレの長期化により経済成長が停滞したことに加え、労働生産性の伸びに対し十分な分配が行われなかったことを指摘し、労働生産性の伸びと物価上昇率に見合った賃金上昇の実現が重要であることを強調されました。また、今後は労働力人口の減少を補うために、女性や高齢者等の一層の労働参加、あるいは円滑な労働移動の実現が重要であり、そのためにも同一労働同一賃金を徹底し男女の賃金格差縮小に取り組むとともに、労働の質的向上に向けた人的資本投資の強化が必要であることを説明されました。

白書第3章「成長力拡大に向けた投資の課題」では、民間投資が停滞する中、官民連携での計画的な投資、特に脱炭素化やデジタル化に向けた投資を喚起していくことで、エネルギー対外依存の低減などの社会的課題の解決を付加価値創出に結びつける必要性が指摘されました。さらに、デジタル化の推進により、脱炭素化や地方創生などの社会課題への効果が期待される一方で、日本のIT人材の量・質の不足がボトルネックとなっており、IT分野での人への投資の強化が不可欠であることが強調されました。

第2部 パネルディスカッション タイトル :「岸田政権の経済政策と経済財政白書について」 パネリスト:鈴木源一朗氏(内閣府)、岡嶋裕子氏(本学経済学科)、
      安達房子氏(本学経営学科)
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パネルディスカッションの様子

休憩時間を挟み、第2部のパネル・ディスカッションでは、基調講演をご担当頂いた内閣府の鈴木源一朗氏以外に、本学経済経営学部の岡嶋裕子准教授(労働経済学)と安達房子教授(経営情報論)の2人を加えた3人のパネリストの間で、『令和4年度経済財政白書』および「岸田政権の経済政策」に関するディスカッションが展開されました。

初めに、岸田政権の経済政策「未来を切り拓く“新しい資本主義”-成長と分配の好循環-」が唱える「成長戦略」や「分配戦略」、あるいは「デジタル田園都市国家構想」に焦点が当てられ、特にアベノミクスでも重視され果たされなかった「賃金上昇」をどのような政策、メカニズムで実現していくのか、あるいは岸田政権の経済政策に期待できる点と懸念される点について、パネリスト3名から意見が出されました。特に、鈴木氏からは、賃金上昇を実現するためには人材教育を強化しつつ前向きな労働移動を促すことで、適材適所を推し進めることが重要であるという指摘があり、パネリストの間で意見の一致が見られました。

次に、白書第1章に関連し、日本の財政再建に関する議論が展開されました。コロナ禍対応に始まった「総合経済対策」が、円安対策やインフレ対策の政策経費も上乗せされ、急速な財政悪化を招いている状況を踏まえ、財政の自由度を回復させるために今後の財政再建のあり方について意見が出されました。特に、鈴木氏からは、『経済財政白書』でも強調された「経済あっての財政」の表現で示されるように、経済再生を優先しその成果をもって財政再建を進めることの重要性が強調されました。さらに、日本経済が直面する円安の影響、国際資源価格の上昇に伴うインフレ圧力、あるいは金融政策の自由度を回復するための出口戦略、等々に関する意見が交わされました。

また、白書第2章の内容を踏まえ、本学経済学科の岡嶋裕子准教授より日本の「労働力の確保・質の向上に向けた課題」に関する報告が行われました。そこでは、労働力の量的あるいは質的な引き上げに先立ち賃金・分配の問題こそが優先的に解決されるべき政策課題である可能性が高いことが指摘されました。また、労働者の能力開発を国としての人的資本の強化や経済成長につなげるためには、市場で不足するスキルと本人が望むリスキリングの一致を促すような施策や、産業・業界を越境する労働力移動の促進が重要であることが説明されました。さらに、女性の労働参加を促すためには、その阻害要因となっている日本企業の雇用慣行、特に「メンバーシップ型雇用」の見直しと、税制や社会保障制度等の社会経済制度の見直しが必要であることが強調されました。

そして、白書第3章第3節「デジタル化を進める上での課題」に関連し、本学経営学科の安達房子教授より「日本における IT 人材不足の課題を中心に」の報告が行われました。そこでは、日本のIT 投資が金額と生産性の両面で諸外国に見劣りしていることを確認した上で、今後のIT投資による成果を上げるためには、「IT人材の教育訓練」と「業務プロセスの見直し」が重要であることが強調されました。特に、IT人材の育成推進のためには、日本型雇用システムの見直しやITリテラシーレベルの認識・把握が重要であることが指摘されました。そして、本学の学生に対し今後の社会人生活に向けた学びとして「ITスキル」「対人スキル」「専門知識」の3つの領域の重要性が説明されました。

最後に、フロアから提出された多数の質問票から「日本型雇用システムの問題」や「外国人労働力の受入れ」に関するものが取り上げられ、3名のパネリストからはそれぞれの専門領域の視点に基づく簡潔かつ明瞭な回答をご提示頂きました。

限られた時間の中で、多面的な分析を積み上げている『令和4年版経済財政白書』や広範な領域に及ぶ「岸田政権の経済政策」のすべてについて触れることは、当然ながら不可能ではありましたが、他方で参加者からのアンケート回答では、社会的関心の高い重要なポイントに絞り込んだ、明瞭で説得力ある解説を聞くことができ大変に有意義な時間であった、などの評価を頂くことができました。他のご意見も含めそれらすべてを、今後の講演会の改善と開催継続に向けた参考材料にしていきたいと考えます。

(経済経営学部教授 久下沼仁笥)

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