2024年12月20日(金)に、本学太秦キャンパスみらいホールにて、公開講演会「AI時代の学びとキャリア形成」が開催されました。今回の講演会は、本学の学生向けて生成AIの活用を前提としたこれからの学びやキャリア形成についての有益な情報を提供することを目的に、本学経済経営学部学会とキャリアディベロップメント‧センターとの共催による開催となりました。
講師には、日本のAI技術者のトップランナーの一人で、(株)エクサウィザーズのChief AI Innovatorである石山洸氏をお迎えいたしました。石山氏は、「AI技術を活用してあらゆる社会課題の解決に取り組み、社会の幸福を増進する」ことを目的にビジネスを展開されていることから、社会的起業家(ソーシャル・アントレプレナー)としても大変に有名な方であり、「現代の空海」とも呼ばれています。
今回の講演で石山氏は、米国の著名な心理学者ジョン・D・クランボルツが提唱したキャリア理論である「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」に着目し、それに生成AIの活用を前提とした再解釈を加えて、今後のキャリア形成のあり方について独自の見解を展開されました。
まず、キャリア形成に関して二つの理論を説明されました。一つは、目的を意味付けし、その達成に向けて努力するタイプの「山登り型」(キャリア・アンカー理論)で、もう一つは、特定の目的に固執することなく、目の前に訪れる想定外の偶発的なチャンスを活かしてキャリアや実績を積み上げる、「川下り型」(計画的偶発性理論)と呼ばれるタイプになります。
個人のキャリアの8割は「川下り型」(偶発的な出来事)から作り出されることを発見したのがクランボルツです。クランボルツは、偶発的な出来事が起きた際に行動ができる準備をしていることで、あるいは偶発的な出来事に遭遇すべく意図的に行動することで、チャンスを生み出すことが可能となることから、それを「計画的偶発性」と呼びました。また、この計画的偶発性理論に基づくキャリア形成が可能となるために個人が備えるべき重要な要素として、「好奇心」「冒険心」「持続性」「柔軟性」「楽観性」の5つを挙げています。
石山氏は、生成AIを用いて面白い生成物を作り出しそれを社会と共有することで、計画的偶発性が生まれるとし、それを「生成的偶発性理論」と名付け、その具体的な実践方法を下記の通り説明しました。
(1)AIを用いて、自分が関心ある、あるいは面白いと思える生成物をどんどん生み出し、それを社会に向けて積極的に発表すること
(2)発表した生成物のうち、社会からポジティブな反応があり、そこに仲間が集いインタラクティブな関係から大きな波が生み出されること
そして、石山氏ご自身がこれまでに経験した例として、仏教に関するブログ記事を、生成AIを活用して作成し発表したところ、それが巡り巡って、最後は空海が開山した真言宗本山の高野山に招かれ仏教関係者を前に講演をすることになったというエピソードを、ユーモアを交えてお話しになりました。また、現在は、企業人として多くの社会課題の解決に取り組む多忙な日々を送りながらも、個人としては生成的偶発性理論の実践として、紅白歌合戦出場に向け生成AIを使って作詞‧作曲を大真面目に取り組んでいることも紹介され、その作品の一つを披露されました。
講演の最後に、生成AIによって個人のWell-being(幸福)が向上するとする仮説を、次の3つの英語の助動詞を使って説明されました。
(1)Must:自分がやりたくないけど、やらなければならないことは、生成AIで自動化することで、やらなくて済むようになる。
(2)Can:自分の能力だけではできなかったことが、生成AIを活用することで実現できるようになる。
(3)Will:生成的偶発性によって自分がやりたいことが次々と発現し、自分でも予期してなかったキャリアが形成される。
今回の石山講演は、驚きと笑いの連続で、講演後の質疑応答でも多くの質問が出されるなど、あっという間の90分でした。参加した学生からのアンケート回答では、「本当に刺激になった」「今日から生成AIを使って夢を叶えたい」「私も紅白出場を目指したい」など前向きな感想が多く寄せられました。何よりも、自分のキャリア形成に向けて生成AIを有効に活用する一つの具体的な道筋が示されたことで、学生にとっては大変に有益かつ生産的な講演会となりました。
(経済経営学部 教授 久下沼仁笥)