Special Cross Talk 松波特任教授×小関教授 特別対談
世界で活躍する
エンジニアになることも
夢じゃない!
イノベーションの先駆者が語る日本の開発力の国際化研究
~未来を生み出す皆さんへのエール~
京都先端科学大学の松波弘之特任教授は、環境にやさしく高い電圧に耐えられる「シリコンカーバイド(SiC)パワー半導体」を開発した第一人者だ。SiCパワー半導体はさまざまな分野に使われており、身近なところでは新幹線や電車の車両、最近ではEVにも組み込まれているという。この功績で米国の電気電子学会からノーベル賞の前哨戦とされるエジソンメダルが贈られた。現在は京都先端科学大学の特任教授として教壇に立ち、84歳の今も学生の育成に励んでいる。(聞き手:京都先端科学大学 小関敏彦副学長)
前向きに楽しく研究を進める秘訣
ー小関副学長 日本の基礎研究力を上げていかなければなりません。基礎研究を長年続けられたモチベーションは何でしょう。
ー松波教授 大学4年生の卒業研究で電子デバイスの作製に成功した経験から、研究とはこんなにも面白いものなのかと実感して大学院に進学しました。研究を進める中で、私の恩師から“工学は産業界に貢献する学問”と言われたことがきっかけで人の役に立つ技術を開発しようと考えました。それがモチベーションとなってSiCパワー半導体の研究につながったと思います。
ー小関副学長 SiCパワー半導体の研究が成功した秘訣は何でしょうか。
ー松波教授 一緒に研究していた学生の好奇心が強かったことです。ある時、その学生は普段と違うものができたと私のところへサンプルを持ってきました。異なるものができた時に気にとめない学生が多い中で、その学生だけは変わった成果に興味を持っていました。よく見るとピカピカと光っていて、それがSiCパワー半導体の研究のはじまりでした。最初から発見・発明を目指したわけではありません。情熱を持って研究し、継続して取り組むことが成果につながるのだと思います。
ー小関副学長 今の日本の研究は出口(成果)への期待が高くなっています。
ー松波教授 私の場合は結果としてイノベーションにつながり、とても幸運でした。ただ、自分の道を貫いて研究することが成果につながるのであり、最初からゴールを求めてはいけないと思います。SiCはもともと研磨材として使われており、研究している人はほぼいませんでした。そこに注目して20年以上研究を進めたことでSiCパワー半導体として応用できました。目標は高くしつつも目線は低く、本質を見極めながら人と違うことをやる。その勇気が大切です。
SiCパワー半導体導入による電気エネルギーの有効利用、環境負荷低減

国際化の重要性
ー小関副学長 研究力向上には国際化を進めることが大切です。
ー松波教授 SiCパワー半導体の研究は海外からも注目されていきました。今では米国をはじめとして、世 界中でSiCパワー半導体がさまざまな製品に使われています。世界と一体となって進めたことが技術を広く展開することにつながったと思います。日本の大学は世界各国との連携をもっと深め、国際化を進めることが重要だと考えています。
ー小関副学長 京都先端科学大学では国際化やコミュニケーション力を高める取り組みを積極的に進めています。
ー松波教授 留学生が多いだけでなく、工学部では授業を英語で実施するため、英語力が抜群に向上します。他の大学の学生との違いに企業の方々も驚くはずです。私は座右の銘として、次の二人の言葉をよく引用します。一人は発明王トーマス・エジソンの言葉で“Genius is one per cent inspiration, and ninety-nine per cent perspiration”「天才とは99%の努力と、1%のひらめきからなっている」。もう一人はトランジスタを発明したウィリアム・ ショックレーの言葉で“Creative failure”「失敗は発明のもと」。自らの研究活動を振り返ると、そのような経験をたくさんしてきました。これから未来を生み出していく若い世代の皆さんに、これら先人の言葉をエールとして贈りたいと思います。
