学科トピックス

2014年08月19日

コミュニケーションで地域や組織を元気にする

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亀岡の特産・香辛料ハバネロ製品をどのように食生活に取り入れられるか、消費者のグループインタビューによって明らかにする。製造元社長と調査について打ち合わせ。

社会コミュニケーションコースで「コミュニケーション」を学ぶ

社会で役立つ人材となるには「コミュニケーション力」が不可欠であり、「プレゼンテーションやディスカッションの能力を鍛えよ」と言われます。それはまず、自分の考えを明確に言い表す自己表現力を基礎に、明快な発言や理路整然としたディベートで人を説得し、相手の思考や行動をある方向に誘導する「制御系コミュニケーション」の力が重要だということにほかなりません。

社会コミュニケーションコースでは、さまざまなメディアから送られる情報を観察・分析し、得られた結果を発表しあったり、ときには自分たちでポスターなどの作品を作ることによって、そんな発信のプロたちのコミュニケーションの方法に学ぶ授業や演習(参加型の少人数クラス)を行います。

論理やデータ、情緒への訴えも総動員

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経営学科の学内実験ショップ「京學堂」への来店促進をはかるポスター。ゼミ生が30人近くの学生に扱い商品のスイーツを食べたコメントを聞き、キャッチフレーズにあしらって制作。

制御系コミュニケーションについて具体的に考えてみましょう。選挙の候補者や消費財メーカーは、自分の政策のよい点を訴えたり、自社の製品が他社よりどれくらい優れているかをアピールします。そこでは、政策のメリットや効果が具体的にどうか、製品の効能がどんなものか、主観や思い入れではなく客観的な論証や検証を示して相手を説得することが求められます。

そんな説得の場では、論理やデータはもちろん、ものの言い方やジェスチュアの工夫、好感を持たれる美女やヒーローの起用、音楽や図像など条件反射を促すシンボル、愛嬌のよさやセックスアピールなど、印象操作をもたらすさまざまな情緒的な訴えかけもが駆使されています。

演説のカリスマと言われたヒトラーも、入念なリハーサルで弁論のパートに応じたドラマティックなポーズを練習していたと言われます(もちろん彼は国家を誤った方向に誘導してしまったのですが)。武力や世襲でなく、説得を成功させ、多くの人を惹きつけた政策や商品が政治や暮らしの場で生かされる私たちの社会では、あらゆるものを動員したコミュニケーションが行われうるのです。

こころをひらくコミュニケーション

しかし、ネットやスマホが普及し、世の中の情報量が飛躍的に増えている昨今、プロといえども「情報の海に呑まれて番組や広告が消費者に届かない」「生活者は自分だけの関心の世界という強いバリアを張っているのではないか」といった悩みを抱えているといいます。

日本を代表する広告クリエイターである早川和良さんは、送り手の独りよがりにならず、多くの人のこころをひらく作品表現とは、たとえば子どもの頃の思い出や失恋経験など、受け手とも共通する作り手の体験を巧みに取り込むことによって、人々の「共感のポイント」に訴えるものではないかと言っています。早川さんは、山下達郎さんのロングセラー「クリスマス・イヴ」をBGMに、遠距離恋愛の恋人たちがクリスマスに新幹線の駅で再会するときめきを描いた歴史に残る名CMを作りました。

コミュニケーションとは不思議なもので、それは情報を超えたところにも成り立ちます。「おはよう」というあいさつにはニュースのような情報はありません。しかしそれを笑顔とともに言ったり、スタンプをつけて送ったりすることで、明らかに狭い意味での情報のやりとりを超えた何かが交わされており、それらは異質な他人同士をつなぐうえでとても大切な役割を果たすものです。

こころを探るコミュニケーション

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演習でのKJ法の利用。メンバーが学習やチーム運営へのアイディアや反省を付箋紙に書き入れ、模造紙に貼り出して分類すると、課題やみんなの思いが見えてくる。

こうしたコミュニケーションには、相手に働きかけるばかりでなく、相手のこころのありさまをあぶり出すものもあります。社会学で学ぶ社会調査のひとつに、年齢や性別、職業などが似通った数人を対象に行うグループ・インタビューという方法があり、今のお役所の政策をどう思うか、メーカーの商品を使ってみて不満や改善してほしい点はないかなど、多くの世論調査や市場調査の仕事で活用されています。このようなインタビューを入念に行ってみると、内閣支持率や企業へのクレームのような表に現れやすい声だけでなく、住民や消費者自身もふだんは意識していない本音が引き出されることがあります。

アメリカのファストフード店でミルクシェイクを買うある消費者たちを追跡調査してみると、その人たちは、出勤途中でこの商品を買い、職場に着くまでに車の中で飲んでいることがわかりました。この人たちにとってミルクシェイクは「おやつ」や「嗜好品」ではなく、移動中も片手でとれる手軽な「朝食」であり、ケーキやソフトドリンクではなくハンバーガーやサンドイッチの代わりだったのです(注)。

行政や企業の仕事の現場では、このような人の意識や無意識を引き出すコミュニケーションの技術がさまざまに応用されています。たとえば、互いに面と向かって言いにくいことでも、一人一人が思うことを付箋に書きつけてホワイトボードに貼りつけ、異なる意見や似かよった意見を分別していくことで、メンバーの考えていることが少しずつあらわにされていくKJ法という手法があります。また、グループで一緒に街を歩いた後に、思い出のある場所や不便を感じるところなどを語り合い、大きな地図に記入したり、あってほしい姿を街の模型にしていくことで住民が地域に何を望んでいるかをあぶり出し、共有するまちづくりワークショップなど、さまざまな方法が実践されています。

「みんなのいま・これから」をみんなに見えるようにする

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京都府福知山市夜久野町の特産である蕎麦を京都土産としてPRするブランド名とパッケージデザインの案。ゼミ生がアンケートやインタビューにより消費者・食品業界・蕎麦店から製品の強みや可能性を引き出し、デザインのアイディアとして集約した。パッケージデザイン:坂田佐武郎 (注)石井淳蔵『ビジネス・インサイト』、岩波書店、2009年

目の前の知り合い、いつも一緒にいる近しい仲間だからといって、お互い日頃何をしているか、何を考えているかを必ずしもわかりあっているわけではありません。付箋からツィッターまで、ここに述べたいろいろなコミュニケーションを仲立ちする広い意味でのメディアは、世の人の思いや動きを目に見えるものにしてくれる役目を果たしています。

私たちは、海外や遠い地のことはもちろん、現に住んでいる狭い地域のできごとですら、テレビのニュースやウェブサイトなどではじめて知ることが少なくありません。こうしたメディアはジャーナリズムと呼ばれ、私たちの生活環境を見守り、「みんなのいま」を見えるものにする役割を担っています。

音楽や詩、アートなどの芸術作品はとりわけ、世の人が漠然と感じている思いをアーティストたちが直感的に感じ取り、それにわかりやすい(あるいはわかりにくい)姿を与えることで表現され、現に起きていることはもちろん、まだ起きていないこと、人々のかすかな予感といったものすら目に見えるようにするはたらきがあります。

ヴェトナム反戦など、若者たちの反体制運動が盛んだった1960年代、アメリカでは運動が活発なのにロンドンはなぜ盛り上がらないのか、と謳ったローリング・ストーンズの「ストリート・ファイティング・マン」という曲が大ヒットしましたが、運動の広がりを抑えようとするイギリス政府によって放送禁止に指定されました。ひとつの歌が人々の気持ちを代弁し、そこまで大きな力をもつこともあるのです。

内外へのコミュニケーションによって組織や地域のよさや課題、メンバーが誇れる持ち味など、当事者たちの何が強みとなるのか、何が問題となるのかを発見し、それをたとえば製品やサービスの宣伝、特産物の開発、まちづくり、観光の魅力の発信といったコミュニケーションや集約作業、解決策を通じて、内外の人々の間で共有できるようにしていく。

社会コミュニケーションコースで、そんなメディアを通じたコミュニケーションの実践の力を養い、さまざまな職場で活かしてください。

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君塚 洋一 教授
メディア論、表現文化論、広告広報論。成城大学大学院文学研究科コミュニケーション学専攻修了。文学修士。媒体社の研究機関、国際日本文化研究センター客員研究員などを経て現職。『イメージ編集』(共著・武蔵野美術大学出版局)、『文化としてのテレビ・コマーシャル』(同・世界思想社)、「放送音楽の社会史01」『URBAN NATURE』vol.01(京都学園大学君塚洋一研究室)。

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