学科トピックス

2014年08月19日

心理学実験を通して身につける力

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複雑さに挑む科学

社会を、集団を動かそうとしても、個人では無力だと感じることは、誰にでもあるでしょう。おかしなことに、集団のほとんどの人が間違っていると思う方向に動くのを止められないこともあります。人は集団になると、個人の観点だけでは理解できない現象が起こるのです。

このような複雑な現象にアプローチするには、実験、調査、そして、シミュレーションなどを用いた科学的思考が必要になります。こころと社会の複雑さに挑む科学の一つに、社会心理学があります。

社会心理学とは

社会心理学では恋愛からゲームまでどんなテーマでも扱いますので、知らないうちにその研究成果に触れてきたかもしれません。でも、一般受けするからと言って、簡単なわけではありません。欧米の研究結果が日本では再現されないこともあれば、ある時代だけに通用する話もあります。長年にわたり、多くの研究者の努力が積み重ねられて、普遍的に見いだされる結果が世に広まります。科学とは、慎重な営みなのです。

少しずつであっても、科学的に証明された結果が積み重なれば、人類が共有できる貴重な財産となります。意志決定しようとするとき、自己をコントロールしようとするとき、新たな問題に立ち向かおうとするとき、科学的な知識は常に私たちの心強い味方となります。

新しい科学領域

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ツイッターネットワークの例。つながり数の多い少数とつながりの少ない多数に極端化するべき乗分布が見られる。

近年はwebから得られる大量のデータから、こころと社会を解読する試みも行われています。本学でも、新しい知識とともに、新しい技術も身につけられる教育を心がけています。

この図は、ツイッターを用いたソーシャルネットワークの分析の例です。どのように人々がつながり、どのような考えが広まっていくのか、というトレンドを捕まえることができます。このような分析と企業から得られるデータと組み合わせて、マーケティングに応用されています。

新しいweb技術は、ネットワーク科学、生物学、社会心理学などが絡み合うあたらしい学問分野も生み出しつつあります。そこでは、多様な個人が専門家に負けない知性を示したり、課題に応じて集まる人々が組織に負けない仕事をする可能性が示されています。社会も、集団も、何も変わっていないように見えても、実は、わくわくするような変化が起きているのかもしれませんね。(有馬 淑子)

心理学実験、データ解析と科学的思考

心理学の実験や調査

人間の心を研究対象に含む学問は、心理学だけではなく、例えば哲学、文化人類学、文学、歴史学、脳科学など、たくさんのものがあります。その中での心理学の特徴は、実験や調査などを行い、それによって得られたデータをもとに、科学的な方法によって人間の心を解明しようとするところです。心理学で行う実験がどのようなものか、実際に体験していない方にはなかなかイメージがつかめないかもしれません。心理学の分野によって、実験の種類や行われ方もさまざまですが、社会心理学における研究については、「複雑さに挑む科学」をご覧ください。

データ解析と科学的思考方法

実験によって心理学の研究を行っていく上で大切なこととして、ここでは2つのポイントを考えます。一つは、実験や調査のデータを分析する能力です。実験データを分析するには、統計学の知識や、実際にデータを分析するためにコンピュータを使いこなす能力などが求められます。しかし、データをもとに研究を進める上で大切なことは、コンピュータを使ったデータ解析の技術といったものだけではありません。さらに大切なのは、どのように実験や調査を行ってデータを集めると適切な研究結果が得られるのか、また手持ちのデータとその分析結果から論理的に何が判断できるのかといった、科学的な思考方法を身につけていることです。

心理学を通して身につける力

心理学の学習と研究を通して身につく力とはどのようなものかを整理してみましょう。一つは、人間の心についての深い理解です。心の成り立ちや働きについての知識は、社会におけるさまざまな場面で大いに役立つことでしょう。さらに、科学的な思考方法によって論理的に問題を分析する力、統計データを使いこなす力など、心理学研究の学習を通して得られる研究能力は、心理学を研究していくという直接的な進路だけでなく、さまざまな産業分野で活躍するための論理的思考の基礎といえるでしょう。(行廣 隆次)

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有馬 淑子教授

専門は社会心理学。担当科目は「社会心理学」「シミュレーション&ゲーミング」など。大阪大学大学院博士課程修了、博士(人間科学)。論文に「集団極化現象と模擬社会ゲームにおけるコンフリクト-社会的アイデンティティと共有認知の形成過程」など。

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行廣 隆次 准教授

専門は認知心理学、心理測定。名古屋大学大学院博士後期課程中退。北海道大学助手を経て京都学園大学へ。「心理統計学」「心理測定法」「思考心理学」などを担当。

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