教員×学生の研究日誌
Research Journals
2024.05.30
ナノテクノロジーを駆使して
医療の新たな扉を開く
工学部 工学研究科 博士課程前期
福田 涼太 さん(取材当時)
工学部 機械電気システム工学科
生津 資大 教授
パソコンやスマートフォンは、驚くようなスピードで小型化、軽量化されています。その技術を支えているのがナノテクノロジーであり、研究室のテーマでもあります。ナノテクノロジーが求められるフィールドは、電子機器だけではありません。未来の医療においても活躍が期待されており、当研究室では新たながん治療の実用化に向けた取り組みも進めています。研究室に所属する福田さんの研究内容と成果、そして、生津先生が研究を通して学生たちに身に付けてもらいたいと考えている力について、それぞれお話を伺いました。
さらに需要が高まる分野を、最先端で学びたい。
私がナノやマイクロの世界に興味を持ったのは、大学3年生のころ。普段何気なく使っているパソコンやスマートフォンといったデバイスの半導体の中には、マイクロレベルの技術が使われているということを学んだのがきっかけです。この技術を進化させて、世の中のプロダクトをどんどん小型化、軽量化させることが求められています。そうしたイノベーションに貢献できるという意味で研究の意義を感じました。大学でナノテクノロジーについて研究し、さらに知識を深めたいという思いから卒業後は大学院へ進学することに。さまざまな大学院の研究室を調べ、最終的に進学先として選んだのが京都先端科学大学のナノメカトロニクス研究室です。
生津先生はナノテクノロジーを駆使した独創的な材料研究を行っており、先生の下で最先端の知識を身に付けたいと考えました。また、ナノメカトロニクス研究室では多くの企業との共同研究が行われており、ストイックに研究に打ち込める環境があります。週に1度、研究の進捗を確認するミーティングが行われ、そのたびに生津先生から的確なフィードバック、時には厳しい指摘をいただくことができるため、知識と経験を得るスピードはとても速いです。さらに、京都先端科学大学は私が苦手な英語にも力を入れていることも決め手になりました。周りは外国籍の学生ばかりのため、自然と英語でのコミュニケーション能力を身に付けられます。京都先端科学大学に入ったおかげで、最先端の研究力と語学力の両方で成長を実感しています。

がん治療の実用化に向けて、バトンをつなぐ。
現在、私は自己伝播発熱材料の研究をしています。この材料は2つの金属を数十ナノメートルの厚さで重ねて作るミルフィーユのような多層材料で、一見普通の膜のように見えますが、電気や針などで小さな刺激を与えると、自ら発熱するという特性を持っています。私はチタンとシリコンを組み合わせて自己伝播発熱材料を作っており、材料の形状や組み合わせの方法、原子比率を変えることで、どのように発熱量や発熱しやすさが変化するかについて研究しています。この材料はナノレベルの微細な構造を持っており、この構造がユニークな特性のキーとなっています。この2種類の金属の板をただ重ねただけではこの特性は現れません。この微細材料特有の機能とそのメカニズムを理解し研究するのも面白さの一つです。この素材は半導体の機能材料の一つでもありますが、医療の分野への応用を期待しています。チタンとシリコンは、体に入れてもほとんど害がないとされる物質です。将来、この素材をがん細胞に配置し、熱でがん細胞を死滅させることができる日がくればいいなと考えています。この治療法が確立すれば、抗がん剤治療に代わる、患者への負担が少ない画期的な医療となるでしょう。私の研究の目標は、在籍中に少しでもこの素材の性質を解明すること。そして、できる限り多くの情報を後輩に引き継ぎ、半導体産業や医療分野で実用化される未来へつなげたいと考えています。


ある日の研究室の一日
研究室到着。メールなどを確認し返信。今日やることを確認し大まかに予定を立てる。休憩やディスカッションを挟めるよう予定を詰めすぎないようにしている。
少し休憩した後、別の実験を行う。午後の作業は日によって変わるが、評価実験や実験準備作業が多い。
別の実験を行う。先の実験と同様、内容はその日によって異なる。
食事を兼ねて長めに休憩。
明日のための装置や実験の準備をし、夜中に自動で動かすことができる装置を稼働させる。
帰宅

先生からの一言
研究活動を通して、“仕事力”を鍛える。
私は今年で50歳.大学教員として研究室を主宰するようになり20年が経とうとしています。今、研究生活を振り返りますと、まず思い浮かぶのは私の研究室でこれまで活躍してくれた学生たちの顔です。成績優秀で研究もずば抜けて頑張った学生、成績はお世辞にもよいとは言えなかったが研究でその優秀さをしっかり示してくれた学生、挨拶はしっかりしていて“次はやります”といつも言うがなかなか結果が出ずに苦労した学生。いろいろなタイプの学生がいましたが、彼らに共通することは「めちゃくちゃ頑張った」ということです。研究成果の大小はありますが,私の研究室に所属した期間は、みんな、研究活動に自らのめり込み、集中し、研究を前に進める力を通じて自身の存在をアピールしてくれました。なぜそこまで頑張ってくれたのか。それは、私の研究室が「厳しい」ことを知った上で自ら志願して入ってくれた学生ばかりだったからだと思います。
私は研究活動を通じて学生の仕事力を鍛えることを大事にしています。それは永守理事長の考えと一致するところなのですが、それを研究室という小さなコミュニティで実践しています。日本の今の教育は大学に入ることが子ども達のゴールになっており、そこから先の人生のプランニングは白紙の学生が多いと思うのです。大学から先の方が人生は長いのに、そこが何もない、何も決まっていない、何も決めていない学生は社会に出て必ず苦労します。そこで研究室の出番です。研究室は学生が社会に出るまでの助走期間と私はとらえています。つまり「研究室にいる間に学生をどれだけ鍛えることができるか」が私たち大学教員のミッションであり、卒業後の学生たちの生き方を大きく左右するのです。せっかくこの世に生を得たのですから、しっかり頑張って、日本のために、世界のために役に立つ人材になってほしい。多くの人たちのために頑張れる人になってほしい。常にそう思い、学生を厳しく指導しています。
■限られた時間で目標を達成する、一流の仕事人へ。
厳しいと言っても何から何まで厳しいのではなく、大事なのは「人として当たり前のことをきっちりやること」です。例えば,出会ったときは挨拶をしたり、集合や何かの締切の時間を守ったり、メールの返事をしたり、毎日学校に来たりというように、当たり前のことを当たり前にやることに重きを置いています。それができない学生に研究の話をこちらからいくらしても残念ながらなかなか分かってもらえません。まずはそれらを徹底して鍛えていきます。それらの基本ができるようになると、次は一人一人に異なる研究テーマを与えます。つまり「自分でやらなければ終わらない」環境をつくります。研究というものは学生たちがおそらく人生で初めて与えられた「仕事」でしょう。それをやり遂げるにはどうすればいいのか、何を勉強して、何を実験して、どう分析して、どう考察するのか…。一連の作業をすべて一人でまずは実行してもらいます。おそらくですが、研究を通じて自立させられることこそが、学生が最も「厳しい」と感じることと私は思っています。毎週1回、研究室全員でミーティングをして研究の進捗と今後の予定を報告してもらいます。それを繰り返すことで、学生たちは「研究」という名の自分に課せられた「仕事」を前に進める力が身に付きます。私の研究室では多くの企業と共同研究をしています。これは学生の仕事力を鍛えるのにとても有効です。企業との共同研究はそれが必要な背景、目的、目標、期間などが決まっていますから、限られた時間の中でどうやってゴールにたどり着くかを学生たちは自ら考え、自分の時間の使い方を自分でプランニングするようになります。自分の仕事を効率よく前に進めるには、実験装置のマシンタイムの調整などを通じて研究室の仲間と密なコミュニケーションを取ることが必要になってきます。そういう一連の思考や行動を繰り返すことで一流の仕事人となっていく、と私は信じています。
■目指すのは学生と対等に議論できる研究室。
学生たちを一流の仕事人に育てるには,中身が分からない機械のボタンを押せば答えが出るような誰でもできる研究テーマを与えていてはダメです。私は工学部に所属していますから、技術的にハードルが高く、面白く、かつ、世の中の役に立つテーマ設定が教員に求められます。そして、学生たちへの教育を通じてせっかく研究をするのですから、「他の教員が思いもつかなかったこと」もしくは「思いついていたけど無理とあきらめていたこと」を学生たちと一緒にやり遂げたいと私は常に考えています。つまり、よい教育をするにはよい研究テーマを設定する力が求められるわけで、学生たちに「頑張れ頑張れ」と言う分、自分もそれ以上に頑張らないといけないということになるのですね。なので日々楽しくもしんどいです(笑)。「学生と教員が研究という同じ土俵の上で対等に議論する」。これが,私が目指す研究室の姿です。どの研究室に入ってもいいので、一人でも多くの学生が研究活動に熱心に取り組み、日々の研究を通じて自分の仕事力を自分の力で鍛え、よりよい人生を歩んでほしいですね。研究室に在籍している間は学生たちから嫌われる教員でいい。将来,自らの足で社会に立ってから、「先生、あのときは鍛えていただいてありがとうございました」と言ってもらえるだけでいい。そう思いながら、日々、学生たちとの研究活動を楽しんでいます。自分を鍛えて一流の仕事人になりたい君、どうぞ私の研究室にお越しください!
※記事に掲載している情報は取材当時のものです。