先生に聞いてみた

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京都先端科学大学先生に聞いてみた

満石 寿 教授

今回の「先生に聞いてみた」では、身体を動かすことの効果を心理・生理的に実証し、アスリートや一般の人たちの健康増進に役立つ研究をされている満石先生にいろいろ聞いてみました。

健やかな心身を保つために 身体を動かすことの効果を実証

Q:ご専門の研究分野についてお話しください。

ちょっと難しく言えば、「身体活動や運動がもたらす効果を、心理的、生理的な面から科学する」ということです。要するに、私たち人間にとって身体を動かすことが、心や脳にどのように作用し良い効果となるかということを研究、解明しています。
最近はテレビや本などでも、身体を動かすことが健康につながる、老化防止や認知症予防になる、ストレス解消になる、といったことが盛んに言われていますね。皆さんもこれらのことは十分にわかっていると思います。しかし実際に、それが私たちの心や脳にどうつながっているのかを実証することは、実験をしてデータを解析していかないと明確にはなりません。「科学する」とは、そうした定説を一つ一つ評価し、測定していくことなのです。

スポーツの場面に限らず、「やる気」や「集中力」といった言葉が昔から様々な場面でよく使われます。これも人間の心と脳、自律神経系や副交感神経系の働きと深く関係しています。たとえば簡単な実験として、やる気が出ない時や緊張してそわそわしている時に、お手玉を使ったジャグリングをしてもらいます。そうすると、不思議とやる気が出てきたり、集中しやすくなったりするのです。この事例一つとっても、身体を動かすことや運動することと私たちの心や脳の関わりが、いかに密接であるかがわかります。

Q:心理学と生理学が複合した新しい学問、ということでしょうか?

「スポーツ心理学」や「健康心理学」、「健康スポーツ心理学」と言っています。広い意味での「人間科学」ですね。ただ、スポーツといってもアスリートのためだけの学問ではありません。むしろお年寄りや子どもたちも含めた、一般の人たちの健康増進に役立つ研究でありたいですね。運動も、本格的な競技からスポーツジムでのトレーニング、また近所のウォーキングなど様々です。家庭でできる手軽なストレッチだけでも身体のためには、高い効果を上げることができます。
考えてみれば、人間は元々、生きるために自然と対峙し身体を動かしてきました。そうしながら心身の健やかなバランスを保っていたのです。しかし、車社会、あるいはネット社会と言われる今、私たち現代人は昔に比べてあきらかに運動不足になっています。一方で、精神的なストレスも過剰気味です。生活習慣病や心の不安を抱えている人も多いですね。だからこそ、運動することはとても重要です。また、ご高齢者や高血圧や血糖値の高い方々、喫煙者の禁煙といった依存症対策にも運動することの効果が認められています。そうした方々に持続的な運動を促すために、心理学的なアプローチが求められているのです。

Q:今の研究の道に進まれた経緯についてお聞かせください。

 大学では、臨床心理学を専攻していました。当時、「人の話を聞くことで、何か役に立ちたい」という漠然とした思いから臨床心理士をめざしており、その後、さらに深く学ぶために大学院に進みました。その頃は、臨床心理学と実験心理学のどちらに進むか迷い、さらに3年間、早稲田大学の大学院で学びました。 大学4年間は、アメリカンフットボールのクラブに属していました。それまでも、バレーボールや軟式テニスをやっていました。自分自身は、スポーツに親しんでいたにもかかわらず、大学4年間は、心理学とスポーツ、運動することが結びつかなかったのです。その後、大学院に入り徐々に自分の中で、心理学と運動やスポーツが大きなテーマとしてつながっていったのです。
ただ、こうして振り返ってみると、スポーツをやってきた体験があってよかったと思います。たとえばトレーニング中に限界の重さのバーベルを上げる時、声をあげながら持ち上げる方がより大きい力を出せるといった不思議な経験について、学問として学んだ脳や心の仕組みとスポーツの経験から、空想ではなく現実味をもって理解することができますから。

Q:学生たちに対して、メッセージをどうぞ。

学生たちは、当然若く元気があります。だから、高齢者の気持ち、高血圧や血糖値などといってもあまり実感はないようですね。ただ、学問や研究が自分のためだけではなく、世の中の役に立つということを考え、いろいろな立場の人や今の世の中全体について考えることも大切にして欲しいですね。
それでなくても、本学科に入ってくる人たちは、比較的スポーツをすることが好きな人が多いです。本格的なアスリートや競技者もいます。そういう人たちにとっては、ストレスを解消するとはどういうことか、また集中力を高めることでパフォーマンスが向上するといったことも、様々な実験を通じて理解してもらいたいですね。言葉や理論だけでは伝わらないことも自分が実際に身体を動かしながら体験し、その体験を科学的に実証することでこれまで関心がなかったことにも興味をもつようになったという学生が増えてきていることを実感しています。

Q:研究活動以外で、興味のあることは何ですか?

実は、専門分野とはまったく違うのですが、昔から“機械いじり”が好きだったのです。学生の頃は、自分でパソコンを組み立てていました。意外と“理工系”なんです。パーツを買ってきて試作を繰り返し、もっとスピードをあげるために新たなパーツに替えたり、結構凝っていました。だから、ある程度パソコンの仕組みや簡単なプログラミングも理解できます。といってもまだまだ専門家には及びませんが、ゆくゆくは、自分の専門分野とリンクさせたオリジナルのアプリを開発してみたいという夢もあります。
たとえば身体に装着して、リアルタイムにストレスが解消された度合い(数値)が確認できるようなシステムがあればと考えたりしています。私たちの研究がさらに高度な情報化・電子化と結びつくという可能性は、かなり高いと確信しています。

満石 寿 教授みついし ひさし

健康医療学部 健康スポーツ学科

宮崎県出身。京都市在住。早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程。立教大学「コミュニティ福祉研究所」、福岡大学 スポーツ科学部助教を経て、現職。専門分野は「健康心理学」「スポーツ心理学」「応用健康科学」「生理心理学」。担当科目は、「健康スポーツ心理学」「健康とストレス」「健康科学」等。

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