先生に聞いてみた

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京都先端科学大学先生に聞いてみた

寳関 淳 准教授

今回の「先生に聞いてみた」では、「わからないことを明らかにしていくのが研究の魅力」とお話されるバイオサイエンス学科の寳関(ほうせき)先生に、タンパク質の研究についていろいろ聞いてみました。

「わからない」ことがいっぱい! だからこそ、細胞の仕組みやこれを担うタンパク質の機能を明らかにしていく研究はおもしろい。

Q: 京都亀岡キャンパスの印象はいかがですか?

出身は兵庫県ですが、大学・大学院も京都大学ですし、本学に異動する前10年ほどは主に京都大学に勤めており、京都在住なので京都はよく知るところです。でも亀岡は初めてで最初に来た時は電車が保津峡を通る際、渓谷の景色を眺めて「すごい!」 と思いましたが、すぐに慣れて、今は京都市内から通っていてもさほど遠くないと感じるようになりました。京都亀岡キャンパスは、バイオサイエンス研究を行うのに必要な設備も十分揃っています。また、敷地も十分広いですから、学生の皆さんものびのび学べる環境だと思います。

Q: 担当科目について教えてください。

私が担当する主な科目は「生化学A・B」と「遺伝子工学」です。生化学は生命の化学で、生命の基本単位である細胞を構成する物質である糖、タンパク質、脂質や核酸(DNA)がどのように作られて、壊されているか、その過程でどのようにしてエネルギーを得ているかについて講義しています。遺伝子工学は、人工的に遺伝情報を改変し、利用する技術です。遺伝子を挿入したり破壊したり、タンパク質を作ったりするベーシックな技術から、物質生産や医学への応用利用までについて講義しています。

私も様々な研究室に勤めてきましたが、学生の皆さんが将来、研究者になる以外にも、食品や医薬品、化学、化粧品メーカーや公的な分析機関などで働くための基礎的な知識を学ぶことができますよ。

Q: 先生が研究されているのはどんな分野ですか?

経歴にあるように、勤め先が多く、研究内容も多岐に渡りますが、この10年ほどは細胞におけるタンパク質の一生(代謝)に関する研究をしています。タンパク質といえば、栄養素のひとつと考える人が多いかもしれませんが、タンパク質は細胞の中で最も主要なプレーヤーで、細胞内のほとんどの活動はタンパク質が担っています。タンパク質は細胞内で生まれ、成熟し、機能しますが、やがて死に至り、分解されます。分解されたタンパク質は新しいタンパク質の部品(アミノ酸)となり、リサイクルされます。歳をとるとタンパク質を分解する活性が低下し、分解されるべきタンパク質が細胞内に蓄積されてしまいます。そうすると細胞の調子が悪くなったり、糖尿病やアルツハイマー病をはじめとする様々な病気の原因になったりします。そうした細胞内のタンパク質の一生に関わる研究、特にタンパク質を分解する活性が低下することで細胞内に異常なタンパク質が蓄積し、細胞内で異常が引き起こされる仕組みについて研究しています。

Q: 実際に、そうした研究は社会にどのように役立つのでしょうか?

細胞レベルの基礎研究は、人や動物などの個体を研究対象としていないので、すぐに役に立つものではありませんが、病気の原因解明、治療法の開発や予防を目的とした健康食品の開発などにつながる可能性があります。

例えば、赤ワインやゴマの成分が細胞レベルで活性を発揮する仕組みを研究した成果は、数年前に新聞でも取り上げられました。ヒトの細胞では酸素を使ってエネルギー生産をするので、その副作用として有害な活性酸素が生じ、年齢を重ねていくと活性酸素がたくさん発生するようになると考えられています。私の携わった研究では、老化細胞のモデルであるタンパク質分解活性が低下した条件で活性酸素がよりたくさん発生し、細胞死が引き起こされる仕組み、そしてこの細胞死が抗酸化作用を持つ赤ワインに含まれるポリフェノールやゴマに含まれるセサミンの一種により抑制される仕組みを明らかにしました。この研究の成果は赤ワインやゴマの成分がアルツハイマー病などの老化に関連する病気の発症を抑える可能性を示していると考えられます。

Q: 先生が現在の研究に携わるようになったきっかけはありますか?

小さい頃から理系科目が好きでしたが、「生物」は好きではなかったんです。教科書には事実だけが書かれていて、理屈がなかったからです。それでもひょんなことから農学部に入り、大学4年生からずっとタンパク質の研究に携わってきました。はじめはタンパク質自体の機能や構造について研究していましたが、別のタンパク質の世話をする機能を持ったタンパク質に興味を持ち、10年ほど前から細胞生物学、とくに細胞内のタンパク質の一生に関する研究を続けています。教科書を読むと何でもわかっているように思いますが、その先へ一歩踏み込むとわからないことがたくさんあります。それをひとつずつ明らかにしていくのが研究の魅力でしょうね。

Q: 最後に、学生の皆さんへのメッセージをお願いします。

今のうちにたくさん頭を使っておくことです。本学の学生もそうですが、大学を受験する高校生の皆さんも。数学をはじめとして多くの教科は大人になると直接は役に立たないと思うかもしれませんが、高校生から大学生のあいだは頭の柔らかい時期ですから、教科は関係なく、よく考え、よく覚えることで頭を使ってください。あと、何事にも一生懸命に取り組むことが大切です。

そしてぜひ、細胞におけるタンパク質の一生に関わる研究を一緒にしましょう!研究というのは、誰も知らないことを初めてやるわけですから。その意義を学生の皆さんにも感じてもらいたいですね。それに、研究には国境はありませんので、ここ亀岡で実施した研究の論文が、世界中に発信することができます。

寳関 淳 准教授ほうせき じゅん

バイオ環境学部 バイオサイエンス学科

京都大学農学部卒業、同大学院農学研究科修士課程修了、大阪大学大学院理学研究科博士課程修了。理化学研究所播磨研究所、大阪医科大学、京都大学再生医科学研究所にて博士研究員、京都大学再生医科学研究所助教、京都産業大学総合生命科学部助教、京都大学学際融合教育研究推進センター生理科学研究ユニット特定准教授、京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻特任准教授を経て、本学バイオ環境学部准教授。学生時代は合唱団でコーラスの主旋律を歌うトップテナーを担当。

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