先生に聞いてみた

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京都先端科学大学先生に聞いてみた

萩下 大郎 教授

今回の「先生に聞いてみた」では、「微生物の能力を使って社会や人の役に立つことを」と話す萩下先生に、応用微生物学、産業微生物学の研究についていろいろお話を聞いてみました。

目には見えない小さな世界から、 世の中に役立つ大きな夢を見つけ出す。

Q:先生のご専門について教えてください。

応用微生物学、産業微生物学というのが私の専門なのですが、簡単に言うと、微生物が持つ能力を使って何か社会や人の役に立つことをしていこう、というもの。

たとえばアミノ酸。ヒトが生命を維持するためには20種類のアミノ酸が欠かせません。このうち、作るのが難しいアミノ酸をもっと上手に作ることができる、そんな能力を持った微生物を探しています。もちろん、ただ探して見つけるだけではありません。また、実験室で培養して分析したらアミノ酸ができたというところで完結しないのが、産業微生物学たるゆえん。見つけた微生物の機能が、実際に産業的に利用されるところまでを、考えなければならないのです。

理論的に可能であるというだけでなく、実際に産業に活用されることを目的として、また産業に活用されるだけのすごい能力を持った微生物を、日々探しているのです。

Q:地道な、でもとてもやりがいのある研究分野なのですね。

本当に地道な作業です(笑)。微生物はどこにでもいます。自然界には微生物がいないところはありません。そして耳かき1杯ほどの土の中にも無数の微生物がいて、微生物たちは異なる得意分野を持っています。ある微生物はこれができるけれども、別の微生物は同じことがまったくできません。しかし、ほかのことが得意であるというように、自然界の中で微生物はそれぞれ役割を持って存在しているのです。

まずは採取した微生物を実験室で培養し、育てられたものの中から求める機能を持つ微生物を探していくわけです。求める機能の探し方が決まったら、あとは迷わずひたすら微生物をたくさん集めては試して、ということを続けていきます。むずかしくはありませんが、根気のいる仕事です。

Q:微生物学の世界の面白さとは何なのでしょう?

微生物を探すといっても、微生物を採っただけでは、見つけ出したい能力はわかりません。見えないもの、見えない働きを「見える」ようにするために実験手法をいろいろ考えて、うまく見えるようにしなければなりません。考えては、試してみて、求める能力が見えるようになったら、その中からすごい能力を見せるものだけをどんどん選抜していきます。そうして初めて、見えなかった微生物の働きが「わかる」ようになるといえるでしょう。延々と続ける地道な作業の結果ですから、達成感はひとしおですね。

研究者としては、ある目標が設定されたら、何とかそこにたどり着けるように、いろいろ考えて工夫するということが楽しいのかもしれません。今まで誰もできないことに挑戦してみることや、誰も知らないことを自分が一番最初に見つけることができることも、研究の醍醐味。しかも目に見える形で、自分が見つけた微生物が人々や世の中の役に立っているということを実感できるのが、最大の面白さです。

Q:微生物学にはもともと興味をお持ちだったのですか?

理系コースにいた高校生の頃は、進路は工学部かなぁぐらいしか考えていませんでした。ただ私が大学に進学した80年代半ばというのは「バイオ」という言葉が出始めた頃。これからはバイオの時代と言われ始めていて、よく考えないまま流行に乗って(笑)、農学部に進みました。大学院にも行くつもりはなかったのですが、卒業研究をやっているうちに面白くなっていきました。

アミノ酸を作るというのは、学部4回生から大学院にかけての頃に研究室でもらったテーマです。教授はすごい結果が出るとは思っていなかったようですが、あきらめずにコツコツと地道な実験を積み重ねていったところ、予想をはるかに超える結果にたどり着きました。実験の面白さ、研究のやりがいを実感してしまったのですね。あのとき実験がうまくいっていなければ、今、たぶん違う道に進んでいただろうと思います。

Q:授業などで指導される際に大切にされていることを教えてください。

研究を続けていてもずっと結果が出ないと学生はやる気をなくしてしまいます。ですからまず、分析結果が数値として表れるものから始め、さらに実験がスムーズに進むよう言葉掛けするようにしています。スタートをスムーズにしてやれば、よりよい数値を出せるよう頑張ってくれますし、できるようにもなります。実験の手技も上達します。要は、学生がどれだけ本気を出してくれるか。何としてもやろうと思っている学生はうまくいきます。本当に、ちょっとしたことなのです。

もう一つはやる前から「できない」ではなく、とりあえずやってみること。続けていれば、半年もすればできるようになり、学生本人の意識が変わっていきますから。

Q:これから学ぶ学生たちへ伝えたいことは。

やりたいと思ったときが旬です。だから機を逃さず行動を起こしてください。微生物の研究も、興味を持って「見つけたい」と思うことが大切。興味がないと見えない。つまり、見ようと思っていないと見えないのです。そしてそれは、科学で発見できるかできないか、ということにも繋がります。一般人とノーベル化学賞受賞者との違いは、発見できるか、できないか。目には見えないが、探しているものがそこにあることに「気づく」かどうかです。気づけるようになるために、24時間365日、つねに興味というアンテナを伸ばしておきましょう。

「見る」ことを考える。それがこの学問の面白さです。

萩下 大郎 教授はぎした たいろう

バイオ環境学部 バイオサイエンス学科

兵庫県出身。博士(農学)。近畿大学大学院卒業。数々の公的機関や民間の研究所で微生物機能を活用した有用物質生産、排水処理に有用な微生物の探索などについて研究。京都大学大学院農学研究科特定准教授を経て、現職。趣味は車と写真。子どもたちの成長を撮りためた写真は、すでに2万枚。

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