先生に聞いてみた

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京都先端科学大学先生に聞いてみた

弓削 明子 准教授

今回の「先生に聞いてみた」では、言語聴覚士とは決まりきった方法ではなく、一人ひとりを見つめ適切に対応することが大切であると話す弓削先生にいろいろ聞いてみました。

一人ひとりと、誠実に対話しながら接すること。
それが言語聴覚士としての力と糧に。

Q:言語聴覚士をめざした、その経緯についてお話しください。

地元、京都市の高校を卒業して、さて自分はこれからどんな道を歩んでいこうかと考えたのです。医療職には興味がありました。「さらに人とゆっくり、じっくり関われる仕事がいいな」と漠然と考えていました。そんな時に、神奈川の大学に、言語聴覚療法学専攻の学科が新設されるということを知り、思い切って入学しました。
でも自分にはまだ言語聴覚士についての詳しい知識はほとんどありませんでした。ただ、講義が始まるととても面白く、先生のお話を聞くごとに興味が増していきました。そして4年生の時の実習ではじめて、臨床の現場にふれることができました。
講義でたくさん学んだはずでしたが、患者様の様子を掴むことも、会話をすることもとても難しく、それまで学んできた、いわゆる”座学”との違いに戸惑いました。自分にできるのか、と少し悩みましたが、「まだ始まったばかり、もう少しじっくりやってみよう!」と決心しました。

Q:大学卒業後、ずっとこの道を歩んでこられたのですね。

「まだまだ学ぶことがたくさんある」と感じていました。それで大学院に進みました。そこでとくに子どもたちの「言語発達障害学」について学びました。また、同時に非常勤ですが、臨床の現場にも立ち、ますます意欲がわいてきました。
続いてそのまま、同大学の附属病院に言語聴覚士として勤務。その後地元の京都に戻って勤務しました。勤務しはじめて1年たった頃に、言語聴覚士は、国家資格になり、試験を受けて資格を取得しました。資格を取ったからと言って一人前ではないので、これまで恩師の先生方や多くの先輩たち、患者様とご家族に支えられて、この道を歩んでくることができたと、そう強く思っています。

Q:その難しさとは、どういったところなのでしょうか?

私が対象としている方々は、主に乳幼児から、小中学生くらいまでの子どもたちなのですが、子どもたちのことばや発達の状態、発達を妨げている要因は、一人ひとり様々です。1回会っただけではわからないこともあります。だから臨床の現場に立ちはじめた頃は、子どもたちの状態や、身体の中で何が起こっているのか、なかなか的確に把握できないこともありました。とにかく、子どもたち本人をよく観察し、親御さんたちから子どもの様子を丁寧にききとってじっくり接していく。そこからはじまります。決まりきった方法はほとんどありません。

例えば、子どもたちに話しかける時、こちらがどんなことばを話しかければ理解してくれるのか、どんな環境なら理解しやすいのかを、子どもの反応を見ながら探っていきます。また、子どもの発話を引き出して、どんなことばで表現できるのか分析していきます。ひとことで「しゃべれる」と言っても、その背景にはことばが理解できる、語彙が増える、文法を獲得している、発音するために口や舌を動かせる、といった多くの段階があるわけです。どの部分がうまくいっていないから、ことばの発達がうまく進まないのか、といったことを考えて指導を組み立てます。これも子どもたち一人ひとり個別のプログラムを立てて進めていくのです。自分が適切な方法で指導できているのか、常に考える必要がありますね。

Q:言語聴覚士にとってのやりがい、また最も大切な心構えは?

話せなかった子どもがことばを話した、おしゃべりが豊富になってきた、子どもに話しかけると複雑な内容なのにわかるようになったなど、子どもたちの変化はこの仕事のやりがいだと思います。
もちろん、言語聴覚士一人の力だけでは、決してできないんですね。子どもたち自身の努力、親御さんたちの力、また周囲の医師や子どもを取り巻く他職種のスタッフなど、多くの人とのチームワークで成り立っていると思います。様々な方々と語り合いながら接していくことで、子どもたち一人ひとりの確かな成長や発達を支えながらも、私自身育てられているという意識をずっともってきました。日々学びつつ前へ進んでいくのです。だから、自分がはじめに志した「人とゆっくり、じっくり対話しながら接していく」こと。それはとても大切なことだと思います。さらに他職種とのチームワークも必要になりますから、コミュニケーション力は大事です。あとは自己研鑽。自分自身のやり方を振り返ったり、新しい知識を進んで取り入れることも大事です。

Q:学生たちに望むこと、また心がけて欲しいことは何ですか?

私たちの時は、実習は4年生になって初めてありました。でも今は、本学でも2年生からはじまります。講義での座学ももちろん重要ですが、この実習という現場での学びの時間を大切にして欲しいですね。実習では、初めて行く病院で、指導してくださる先生方、患者様、そのほかのスタッフとコミュニケーションをとって学んでいく必要があります。自分がわからないこと、考えたこと、知りたいことなどを積極的に聞いていくことが大切です。患者様にお会いした時は、自分のことを話す前に、まず、相手の話をよく聞くこと。目の前の一人の方の話をしっかり聞く。そこから信頼関係は始まると思います。そのことがどれだけ大切なのかは、実習の現場にふれた時に必ずわかります。
それから、いつも元気でいて欲しい。言語聴覚士は、体力も必要なんです。座って訓練しているイメージがあるかもしれませんが、それだけではないですし、病院中を移動することもあります。子どもが相手だと、遊んだり、時には走り回ることもあるのです。だから、体力は必要です。

Q:今、先生が夢中になっていることは?

実は、「祇園祭」が大好きなんです。地元の祭ということもありますが、なぜか、7月になるとわくわくしてきます。まだマニアと言えるほどではないですが、もっともっと詳しく、祭の、一部始終を自分の目で見て、体験してみたいですね。たとえば、鉾だけでなく神輿にまつわる行事、独特のお囃子など、興味は尽きないですし、奥も深いですね。
読書も好きです。専門書以外には、たとえば瀬尾まいこの『卵の緒』や坂本司の『ワーキング・ホリデー』、柚木麻子の『ランチのアッコちゃん』など軽い小説が好きです。一人の作家の本を次々夢中で読むことも多いです。読書の楽しみは、登場人物の一人の気分になって、異次元を体験するような感覚になることでしょうか。
それから、最近は旅行も好きです。何度も行きたくなるのは沖縄です。食べものもおいしくて、海がきれいで、気分転換に最高ですね。

 

弓削 明子 准教授ゆげ あきこ

健康医療学部 言語聴覚学科

京都市出身。京都市在住。修士(医科学)。北里大学大学院医療系研究科。北里大学病院耳鼻咽喉科 言語聴覚士主任、社会福祉法人聖ヨゼフ会 聖ヨゼフ医療福祉センター リハビリテーション科での言語聴覚士を経て、現職。専門分野は、言語発達障害学、構音障害学。担当科目は、言語発達障害学、言語発達学演習、構音障害学、臨床実習など。

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