2025.11.13

公開講演会「日本経済の現状と課題 -『令和7年度経済財政白書』を中心に-」を開催 

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11月8日、本学太秦キャンパスのN404教室で、「白書で学ぶ現代日本」の公開講演会「日本経済の現状と課題-『令和7年度経済財政白書』を中心に-」を開催しました。

第1部 基調講演 

タイトル:「日本経済の現状と課題-『令和7年度経済財政白書』を中心に-」  

講師:宮野 慶太 氏(内閣府)

第1部は、内閣府の宮野慶太氏が、『令和7年度経済財政白書』の解説を中心に「日本経済の現状と課題」について講演されました。

 白書の第1章「日本経済の動向と課題」では、トランプ関税の影響として米国向け輸出の動向に焦点を当て、最も影響を受けている日本の自動車産業は輸出価格の引き下げで対応し、現地価格を維持、関税分のコスト増を自社で吸収している可能性が高いことが説明されました。また、予想物価上昇率や不確実性の高まりが消費マインドの押し下げに影響していることを指摘し、さらには日本の物価上昇(インフレ)に米など食品価格の上昇が強く影響していることが説明されました。

 次の白書第2章「賃金上昇の持続性と個人消費の回復に向けて」では、まずは予想物価上昇率と消費意欲の関係が年齢階級別に示され、高齢者層ほど予想物価上昇率が高く、それがこの層における消費の停滞に影響している可能性が指摘されました。また、2019年度との比較で、「決まった目的はない」貯蓄が増加傾向にあることが確認されました。さらに、産業別の人手不足感と賃金上昇率の間で、日本ではパラドックス的な現象、つまり不足感の高い(低い)産業において賃金上昇率が低い(高い)ことが示され、市場メカニズムが十分に作用していない現状が説明されました。

 最後の白書第3章「変化するグローバル経済と我が国企業部門の課題」では、サービス収支の推移を確認しながら、広告関連、映像・音楽配信、クラウドサービスなどデジタル関連の赤字拡大が指摘され、国内産業による代替可能性の限界を説明されました。つまり、デジタル関連の赤字は為替レートの調整や内外価格差の縮小によって調整される赤字ではなく、国内産業の直接的な技術力、国際競争力の向上が必要である旨を指摘されました。また、米中の最終需要による日本の生産誘発額の分析について紹介され、米中の対立が両国に中間財を輸出する日本経済に大きな影響をもたらすことが説明されました。

 宮野慶太氏には、7月に発表された『令和7年度経済財政白書』の内容だけでなく、それ以降の動向を踏まえた日本経済の現状分析を解説していただき、示唆に富んだ大変有意義な基調講演となりました。

第2部 パネルディスカッション

タイトル :「経済財政白書と高市新政権の経済政策について」

パネリスト:宮野慶太氏(内閣府) 尾崎タイヨ氏(本学名誉教授) 

第2部のパネルディスカッションでは、基調講演をいただいた宮野慶太氏(内閣府)と本学 経済経営学部の尾崎タイヨ名誉教授の2人のパネリストによる、『令和7年度経済財政白書』および高市新政権の経済政策に関する充実した議論が展開されました。

 まず、白書第1章に関連して、コロナ禍以降の物価等の経済動向について日米欧を比較しての相違点を確認することから始められました。コロナ禍対策として、超低金利政策と積極的財政発動が共通する一方で、2022年度以降の日本と欧米との間でのインフレ率の格差の背景にある要因について議論が交わされました。これは、過剰な給付金のための政府支出など複数の要因が影響している可能性がある一方で、宮野氏からはコロナ禍の2020年以降の3年間をニューヨークで過ごされた生活実感に基づき、日本人と米国人の間での物価予想あるいは消費に対する姿勢の違いについて分かり易く説明され、多くの参加者が納得した様子でした。

 続いて、安倍政権や岸田政権での経済政策の特徴と比較した上で、「物価高対策」や、日本成長戦略本部の初会合で発表された「重点投資17分野」など、「責任ある積極財政」を掲げる高市新政権の経済政策の特徴と課題が議論されました。

 その後、白書第2章に対して尾崎名誉教授は、賃上げと消費拡大を阻害してきた問題点として、非正規雇用の拡大、家計の可処分所得の減少、所得分配における低所得層の拡大、賃金上昇分野での雇用者数や労働時間の削減、等を説明した上で、今後の必要な政策対応として「同一労働同一賃金」に代表される非正規雇用の処遇改善や、社会保険料、特に公的医療保険の保険料率の累進化の必要性などを提案されました。

最後に、参加者から提出された多数の質問票から「物価高対策」や「賃上げ」、さらには「新たなビジネス分野」に関するものが取り上げられ、2名のパネリストからはそれぞれの専門領域の視点に基づいて簡潔かつ明瞭に回答がされました。

今回は限られた時間の中で、多面的かつ広範な分析を積み上げている『令和7年版経済財政白書』のすべてについて触れることはできませんでしたが、参加者からは、「普段は曖昧にしか理解していない社会経済問題について、データに基づいた明瞭かつ説得力ある解説を聞くことができ、大変に有意義な時間であった。」などの感想をいただきました。今後の講演会の継続と改善に向けた励みにしたいと思います。

(経済経営学部教授 久下沼仁笥)