本学では真夏の熱中症から学生たちを守る「手のひら冷却」を導入しています【SLS】

2022年07月22日トピックス

本学学生の必修科目であるスポーツ・ライフスキル(以下、「SLS」)では、熱中症対策として水分補給の徹底だけでなく、屋外種目においてはテントや送風機を設置し、熱中症指数を測定して適宜室内授業に切り替えるなどの対応をしています。単に暑さを避けるだけでなく、暑い中でも自己の身体の状態を把握し、無理せず適切に対処する力を身につけてもらうため、授業でも熱中症のメカニズムとその対策に関する内容を扱っていたところです。

このたび、本学硬式野球部で試験的に導入がスタートしている熱中症対策が、NHKのニュースで紹介されました(6月28日(火)「ゆう5時」、6月29日(水)「ほっと関西」など)。取材を受けた硬式野球部副部長の梶田先生(健康スポーツ学科嘱託講師、SLS担当)に、ニュースでも紹介された「手のひら冷却(手掌冷却法)」について解説していただきました。

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手のひらを冷やす保冷剤を手に持つ梶田先生

👉ポイント

①手のひらには体温調節の役割を担うAVAという血管が多く分布している。

②AVAを冷却することで効果的に体温を下げることができる。

③運動前は15℃程度で5分以上冷却するのが効果的(冷たすぎると逆に効果が小さくなる)。

梶田先生が解説!「手のひら冷却」を活用した真夏の熱中症対策講座

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熱中症対策に効果的な保冷剤

本学の硬式野球部では、練習中の熱中症対策として1時間から2時間ほど冷却効果を保つ特殊な保冷剤を手で握って、体温を下げる「手のひら冷却」の取り組みを試験的に導入しています。「手のひら冷却」のメカニズムのキーポイントは、体の末端部分にある動脈と静脈をバイパスのように結ぶ「AVA=動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう)」という血管にあります。このAVAは、体温調整の役割を担っています。AVAは、体毛のない手のひらや足の裏、頬などに多くAVAが分布しています。人間の両手のひらの表面積は体全体の5%ですが、AVAを流れる血液の量は、毛細血管を流れる血液に比べて1万倍ほどあるため、手のひらや足の裏を冷やすことによって効率よく体を冷やすことができます。

AVAは普段は閉じられていますが、体温が上昇すると、AVAが開通し、一度に大量の血液を手のひらに送り込み、体内の熱を放出し、冷やされた血液を体に戻して体温を下げるという仕組みになっています。「手のひら冷却」は、このAVAを効果的に冷やすことによって血液の温度を下げ、その血液が全身を循環することによって深部体温を下げようとするものです。手のひらはまさに体内のラジエーターの役割を担っているといえます。

手のひらに体温低下機能が備わっていることについては、スタンフォード大学のクレイグ・ヘラー教授の研究グループにより解明されました。「手のひら冷却」を実施する際には、運動中や運動後だけでなく、運動前のプレクーリングが深部体温を下げ、熱中症対策として有効であるとの研究報告があるため、硬式野球部では練習前にも「手のひら冷却」を取り入れています。その他にも、コンディショニング管理において就寝時の「手のひら冷却」が睡眠の質に良い影響を与えることも明らかとなっているため、日常生活においても積極的な「手のひら冷却」の実施を推奨しています。

手のひらを冷やす際には、氷など10度を下回る冷たすぎるものではなく、15度程度のものを使うと効果的であるといわれています。AVAを冷やしすぎてしまうと、たくさんの血液を流すために拡張していた血管が、逆に収縮してしまうことがあり、熱を発散しにくくなるというデメリットがあるからです。また、5-10分程度の手の冷却でも深部体温の低下がみられるとともに、25-30分程度の冷却を実施すると深部体温が約1度低下することが明らかとなっています。意外にも、保冷剤より冷えたペットボトルが15度程度に近く最適な温度であり、胸部発汗量を抑えることができ効果的であることがわかっています。

日常生活などにおいて炎天下で活動する際には、水分補給のために購入した冷えた飲料水の入ったペットボトルを有効活用してください。例えば、運動・活動前に5-10分程度の手のひら冷却を実施して、運動・活動中もこまめな水分補給と身体冷却を継続しながら、運動・活動後に25-30分程度の手のひら冷却を行うことをお薦めします

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野球部員に使用方法を説明する梶田先生

当日の取材の内容は以下の記事としてNHKにて公開されていますので、熱中症対策の一助として是非ご一読ください。なお、今回ご紹介した「手のひら冷却」は、あくまでも熱中症などの症状が起きる前の予防法です。もし、すでに熱中症が疑われる症状が出ている場合には、手のひらだけの局部冷却にとどまらず、全身を速やかに冷やす表面冷却をすることが重要になります。呼びかけに応じないなどの緊急時には救急車を呼び、適切な医療処置を受けることが大切です。

(健康医療学部健康スポーツ学科嘱託講師 鈴木楓太)

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