【国際オフィスニュース】ハーバード大学院生(本学客員研究員)による特別セミナーを開催しました

2019年07月19日トピックス

2019年7月9日(火)と16日(火)、ハーバード大学大学院生による特別セミナーを開催しました。

特別セミナーの講師となったのは、本学の客員研究員でハーバード大学大学院博士課程に所属するヨナス・ルエグ氏とジェシー・ラフィーバー氏です。

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まず、7月9日には、本学京都太秦キャンパス西館アクティビティルームで、ルエグ氏による特別セミナー「『太平洋世界』の発見~小笠原諸島と黒潮フロンティアの形成」が開かれ、学生や教職員約15名が参加しました。

セミナーは本学バイオ環境学部の大西信弘教授の司会で始まり、ルエグ氏のご紹介のあと、ルエグ氏はまず、日本は今でも島国として閉鎖的な存在だと見られがちだが、それは事実ではなく、日本は大小の島々からなる「諸島」であり、島と島の間は海でつながり、また、世界ともつながっており、人もモノも世界と盛んに交流してきたのだと説明しました。

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その例として、19世紀の小笠原諸島の歴史を取り上げ、江戸幕府が初めて太平洋に進出する以前に、小笠原諸島にはすでに、オセアニア人や船を捨てた捕鯨船員の西洋人など多民族が住み着いていたこと、そして、彼らが出身地から持ち込んだバナナ、オレンジ、タロイモ、パイナップルなどの植物や、ヤギやハワイ系の野生豚など原産地が異なる多様な動物がいたことを指摘しました。また、言語も、英語をベースとしながら多くの言語と混合した、いわゆるクレオール英語が使用されていたことを挙げて、社会的・生物学的コスモポリタンを作っていたと分析しました。

また、小笠原諸島の近海で行われてきた捕鯨の歴史にも触れ、1820年ころの欧米の近代的捕鯨産業が海域を経済空間に変化させたこと、日本も、近海を中心とした捕鯨から、西洋式の銃を使う遠洋捕鯨へと変化してきたことを明らかにしました。

そして、歴史を考える上では、政治や外交の動きばかりに注目した歴史ではなくて、時代を生きていく人々やモノの動きを丁寧に調べることで始めて分かる歴史があるのだと強調しました。

ルエグ氏は、スイスのチューリッヒ大学で学士号を取得した後、現在ハーバード大学大学院博士課程に在籍中で、博士論文のテーマは、「黒潮フロンティア」という独自の鍵概念を用いて、日本の海洋環境史から近代日本帝国の空間的発展を考え直そうというものです。本学では8月末まで客員研究員を務めます。

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7月16日には、同じく西館アクティビティルームで、ラフィーバー氏による特別セミナー「『伴大納言絵詞』における人物と炎の表現~非歴史的物語としてのリアルポリティーク」が開催され、学生や教職員約10名が参加しました。

セミナーは、本学人文学部の山本淳子教授の司会で始まり、ラフィーバー氏はミネソタ大学ツインシティー校と種智院大学で学士号を、そしてハワイ大学マノア校で修士号を取得したあとハーバード大学大学院博士課程に在籍し、真言宗の僧侶であることが紹介されました。

今回のセミナーのテーマは、応天門の変を題材にした平安時代の絵巻物『伴大納言絵詞』について、「後白河法皇の依頼により伴善男の怨霊を鎮魂する目的で制作されたもの」とされている定説に疑問を投げかけるものでした。

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ラフィーバー氏は、絵巻物が語る応天門の変のストーリーが歴史的事実と異なることを指摘、さらに、絵巻物に登場する清和天皇があたかも藤原良房の脇役のように描かれていること、伴善男の描かれ方を他の絵巻物作品と比較検討すると、「御霊」としてしては表現されていないことなどを根拠とし、『伴大納言絵詞』は伴善男を御霊として鎮魂するためのものではなく、中心人物は応天門の変の真犯人を探し当てた藤原良房であると結論づけました。そして、もし藤原良房が伴大納言絵詞の中心人物であるとすれば、絵巻の注文主は後白河天皇ではあり得ず、藤原家にゆかりのある誰かではないかと推察しました。

ラフィーバー氏は8月末まで客員研究員として本学をベースに、長谷寺などでのフィールドワークを計画しています。

(国際オフィス 井筒 周)

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