公開講演会「日本の政策課題への視座」(北神圭朗氏) 【経済経営学部】

2023年12月19日トピックス

2023年12月9日(土)、衆議院議員兼本学特別招聘教授の北神圭朗氏を講師としてお招きし、京都太秦キャンパスみらいホールにて、公開講演会「日本の政策課題への視座」を開催しました。

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第1部:基調講演「日本の政策課題への視座」

大きくは「岸田政権の経済対策」と「我が国の安全保障環境」の2つの論点について北神氏の視点から解説頂きました。

まず、現在の物価上昇局面において「物価と賃金の好循環」を目指す岸田政権の経済政策や日銀の金融政策について様々な視点から点検し、それらの問題点を指摘されました。まず、最も重要な前提として、政府は全知全能であるはずもなく、政府の力だけで「好循環」が生み出すことは不可能であり、民間の活力こそが重要であることを強調されました。その上で、人手不足が深刻化する日本では名目賃金の上昇傾向が表れており、むしろ問題は物価上昇により実質賃金が19か月連続で下落していることであり、それが消費の減退を通じて景気の足かせになっていることを指摘されました。そして、現状において優先させるべきは総需要刺激策であり、消費を促すためには所得税減税ではなく直接の現金支給の方が効果的であること、また物価対策として円安や輸入物価を抑えることを優先すべきであることを強調されました。特に円安に対しては、現在の岸田政権および日銀の政策運営は、低金利維持と為替介入というアクセルとブレーキを同時にかけているような状態にあるが、今後は長期金利が自然に上昇することを受け入れる姿勢が円安や物価上昇に歯止めをかけるために必要である旨を説明されました。

後半は、日本の安全保障政策のあり方について解説されました。まず、日本は「独立自存」の初志を大切にしつつ、その上で諸外国との同盟を多元化、緊密化することが「抑止力」の強化には大切であることを説明されました。特に、日本にとって中国の軍事的能力および意図の両面で脅威が高まっていることの背景として、日清戦争以降の日中関係の歴史から捉える視点が重要であることを指摘されました。そして、ウクライナ戦争以降、中国はロシアや北朝鮮との軍事外交上の連携を深めており、世界は「新しい冷戦」の時代に既に入っていること、産業だけでなく安全保障面でも重要な半導体の領域でも日本の役割が大きくなっていること、国論が割れている米国との同盟関係の深化にとって日本の防衛力強化は有効であること、等を説明されました。そして、最後に、経済力や防衛力など国力の増強に努めつつ、「国家を守る意思」を国民が広く共有し、志ある人材を育成するための歴史教育の重要性を説明し、第1部の基調講演を締め括られました。

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第2部:ディスカッション「北神議員と考える日本の政策課題」

第2部では、まず初めに受講生から事前に出された北神氏への質問として、国会議員を目指された理由、国会議員としてのやり甲斐・喜び、あるいは失敗・後悔について問われ、それらに対して北神氏より丁寧な回答を頂きました。

次に、リベラルと保守の相違点に関する質問で、古典的自由主義が価値をおく「自由」と保守が重視する「伝統」との間で、北神氏が「伝統」を優先すべきと考える理由について質問が出されました。それに対し、北神氏からは「「自由」とは個人の自由であり、「個人が世の中を改善することができる」という考え方を前提としています。私は個人の主張ももちろん尊重すべきですが、個々人の主張よりも、長年の時間に耐えてきた人々の知恵の結晶である「伝統」の方が、多くの場合において社会の安定に寄与していると思います。そして、社会の安定がなければ個人の自由というのも保障できません。だから「自由」より「伝統」を優先します。」との回答が説明されました。

また、無所属の議員から成る会派「有志の会」のメンバーとして国会活動をする北神氏に対し、「功利主義」に基礎をおく民主主義において「数は正義である」にも関わらず、多くの党員を抱える政党に属するのではなく無所属で政治活動を行うことの意義が問われました。それに対し、北神氏からは「民主主義はたしかに数であります。私も今の無所属の立場で未来永劫政治をやるつもりは毛頭ありません。早いうちに自分の考え方にもっとも近い政党に入ろうと思っています。しかし、こうしたことは一朝一夕にできない場合があります。そういうことから現時点では無所属で活動するしかないと考えています」との回答が説明されました。

その他、当日のフロアからの質問として、「中小企業の労働者の賃金引上げには何が必要か」「岸田政権が検討する第3子以降の大学無償化の政策をどう思うか」「1970年代のスタグフレーションの経験から何を教訓とし生かすべきか」等々が取り上げられ、北神氏から明瞭かつ簡潔な回答を頂きました。

終了予定時刻の15:00が近づき、最後の質問として、一部の有権者あるいは日本国民の誤った意見や判断に直面した場合、政治家としてどのようなアプローチでそれらを正すか、さらには政治家として有権者や日本国民に対し何を求めるか、との問いが出されました。それに対し、北神氏からは「民主主義は「国民主権」です。ということは、選挙などを通じて、政治の行く末を決める究極の権限を有しているのは国民です。権限と責任が表裏一体の関係であることを踏まえれば、この国がどうなるのかの最終的責任も国民にあります。今のままでは間違いなく日本は静かに衰退していきます。私は国というのは、今生きている国民だけのものではないと考えています。これまで平和で豊かな京都・国を残していただいた先人の思いも大切にすべきです。また、未だに生まれてきていない国民にこうした平和で豊かな京都・国を残していく責任があります。先祖の思いや、将来世代の利益を無視したら、国は未来永劫存続することができません。是非皆様にも主権者と責任者として、政治に関心を持って、必要な時に行動をしていただきたいと思います。」と回答されたところで、名残惜しい中、参加者からの大きな拍手をもって閉会となりました。

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北神氏が経済政策や安全保障に関する諸問題について自分の言葉で丁寧かつ正面から解説されたことに対し、受講生からは「日本の複雑な経済問題に対して何を優先するべきか明確になった」あるいは「自分たち国民一人ひとりの自立自尊の意識とその実践こそが日本の独立自存にとって大切であることが分かった」といった感想が寄せられました。また、一般の参加者からは、「このような講演会をもっと開催して欲しい」「勉強になる有意義な時間であった」など多くの肯定的評価を頂きました。今後も本学の地域社会貢献の一環として、こうした公開講演会の開催を続けていきたいと考えます。

(経済経営学部 教授 久下沼仁笥)

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